魔王は拝聴する
俺達は宿を出た。
「ヴェセル様!今日は自然平和教にお祈りに行きますよ。」
「ああ。」
そういうことらしい。
俺は、変な男がまた来そうな気がする。
「二度あることは三度ある」と本にあったが、それは本当なのだろうか。
「聞いたか?昨日と一昨日の二日で、魔王教と勇者教に大きな木が生えたらしいぞ?」
「聞いた聞いた!今まで見たことのないような品種らしいわね!」
そんな会話を耳にしながら、何事もなく自然平和教の教会についた。
中に入る。神を祀っているだけに、派手なデザインだ。俺にでもデザインの意匠のこだわりがわかる。
綺麗な色つきガラスに凹凸の多い支柱、細部まで掘り抜かれた椅子など、まさに芸術だ。
「ヴェセル様。さっそくお祈りをしましょう。」
「ああ。」
小声でクラルテが言ってきた。
椅子に座り、クラルテの真似をする。
両手は合わせ、少し前かがみになる。
この姿勢をして、数秒後俺の意識は暗闇に落ちた。
ーーーーー
ここはどこだろう?体に感覚がない。
「確かに最上級の器だけど、中身がほぼカラじゃあないか。あいつに僕の力まで渡したのにこれまでしか創れないなんて、まさに規格外だ。ああ、あの娘の為とはいえ僕も過保護だなあ。あいつも地上に置いてきてしまったし、本当にもう自分が嫌になる。」
誰かが独り言を言っているようだ。
「まあいいか。とりあえず僕もこの器を少しづつ埋めるとするか。」
そこまでは独り言。
次の言葉から俺に対しての意思が込められた指向性のある言葉だとわかる。
「君にあの子を任せるよ?どうかよろしくね。」
その言葉を聞くと俺は意識が浮上していく感覚を覚えた。
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気がつくとさっきの姿勢のままだ。
「これでよし、っと。ヴェセル様、教会を出ましょうか。」
「ああ。」
「今日までリスマスに泊まって、明日は朝から南西の道に行きますよ!」
「ああ。」
そういうことで俺たちはその日も宿に泊まった。




