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不死身ちゃんとユリ世界。  作者: 愛犬元気。
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九話



「ミシル。それなあに?」




教室。


アネルは、彼女が大事そうに抱えている何かを見つけた。


「クマのぬいぐるみ。ももちゃんって言うの。」


「ももちゃん?もしかして桃子さんから取ったの?」」


「うん。可愛いよね。」


ミシルはその手の平のクマのぬいぐるみを抱きしめた。


「桃子さん、確か筆箱もクマだった。それと同じキャラの。ラッキーベア。」



「ラッキーベア?」


「そのクマの名前。持っていると良いことがあるんだよ。」



「じゃあ私にも良いことあるかな。」


「あるよ。このラッキーベアって、普通じゃ買えないのよ。」


「そうなの?」


「うん。真緑ちゃんが言ってたけど、景品でしか見たこと無いんだって。ゲームセンターで何回かチャレンジしたけど無理だったみたい。」


「これさきゅばすちゃんが取ったの。」


「そうなんだ。さきゅばすさんって手先が器用なんだね。」



「でも何回か失敗してたよ。」


「でも取れるの大したものだよ。ロボットの私でも取れなかったから。あそこのゲームセンターアームが弱すぎて。」


「…。」


ミシルはその大事なクマを見つめた。




「桃子さーーん!!!」


「こっち向いて!!!」


「渡したいものがあるの!!!」




教室の外には、相変わらず取り巻きがいた。


皆新顔だ。

真緑がいなくなった後の、ルールの無い親衛隊達はやりたい放題だ。



「うるさいわねえ。」


机で伏せって寝ていたさきゅばすが顔を上げた。



「君達静かにしてくれないかな。みんなに迷惑だから。」



桃子は教室の外にいる彼女達に優しく注意した。



「はーーい!!静かにしまーす!」



その親衛隊の声に、さきゅばすは更にムカッとした。



「粉々にしてやろうかしら。」


「冗談に聞こえないよ。さきゅばすちゃん。」



「冗談?ふふ。」


と、いつも通り意味深に笑う。



「桃子さん!」


だが、新取り巻き達は周りの迷惑も気にせずに教室の中へなだれ込んで来た。


その数8人。


桃子の席はその8人の壁で見えなくなった。


「桃子さんそのクマ好きなんですかぁ?」


「あ、うん。ごめんね。ちょっと今は迷惑だからあっちで…」


「ラッキーベアですよね!!可愛い!!!」


「可愛い!!!」


「…。」


優しいジェントルマンな桃子はその圧にやられていた。



「まだ真緑ちゃん達の方が規則になってたわ。」


アネルはそう呟いた。



「そうね。まだあいつらの方がマシね。本当なにあれ。ゴミを荒らすカラスみたいね。」


さきゅばすは頬杖をついてその集団を眠い目で見ていた。



「ちょっと!!あなた達ここ二年の教室よ!!それに、人の机に腰掛けないで!!」


真面目そうな子がついにキレた。

さっきから彼女のガリ勉ノートは尻の下敷きだ。



「はーいすみませんおばさん。みんな。そろそろ一年の教室に戻ろう。」


「誰がおばさんよ!!!」


真面目な女の子は鼻から煙を出しそうなくらい赤くなっていた。



「みんなごめんね。」



桃子はクラスに平謝りした。



「桃子は悪く無いわ。」


「あいつらが悪い。」


「また新しいのができたのね。」


幸い、人望の厚い彼女に敵意を示すものはいなかった。





「嫌ね。おばさんだなんて。あんたらだって数百年生きてるくせに。」


さきゅばすはそう呟きながら頰をペタペタ触っていた。








「!」


その次の移動教室の授業から戻って来たミシルは、机の上にいたはずのクマがいないことにすぐ気づいた。


「あれ?」


「どうしたの?」


アネルはすぐに話しかけた。


「ももちゃんがいない。」


「え?でもいたよね?出る前。」


「あれ?あれ?」


ミシルは必死に机の周りを探している。


アネルもそこから離れたところを屈んで探して見ても、クマは転がっていなかった。



「あら?どうしたの?」


1人忘れ物を取りに帰ったさきゅばすが遅れて合流する。


すると、今にも泣きそうな彼女の顔が飛び込んで来た。


「さきゅばすちゃん…。」


「どうしたの?そんな襲いたくなるような顔して。」



「ももちゃんが…。」


「え?なくした?」


「わからない。でも来る前はここで大人しく座ってた。」


「盗られたんじゃないの?」


「誰に?」


「あのかしましい女ども。」


「まさか。何のために?」


「決まってるじゃない。王様への貢物によ。桃子さんに聞いてみれば?ゴミから何かもらわなかった?って。」


「さきゅばすさん。どんどん口が悪くなる…。」


アネルは彼女の毒舌に苦笑いしながらも、そこもまた可愛いと思ってしまっていた。



「ふふ。楽しみね。」


「なにが?」


泣きそうなミシルにさきゅばすはまたニヤニヤする。



「王様がその貢物に対しなんて言うかよ。ありがとう大事にするよ。かしら?それとも、これはミシルちゃんのだ!て。正直に言うのかしら?彼女の性格の悪さが見れるのかしら。クスクス。」


「ももちゃん…。」


「大丈夫よミシルちゃん。ももちゃんまた取ってあげる。」


「違う。ももちゃんはあの子だけ。あの子じゃなきゃももちゃんじゃないの…。」


「ミシルちゃん…可愛すぎ!!!!」


さきゅばすは思わず彼女に抱きついて頭を撫でた。


「さきゅばすさん。私も…!」


「ふふ。ご褒美欲しい?なら、それに見合った働きしたらなでなでしてあげる。」


「はい!ありがとうございます!」


アネルは興奮しながら90度綺麗にお辞儀した。






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