八話
「またロボットの暴走か…。」
桃子はその日の放課後、宮桜と一緒に図書カフェへ来ていた。
カフェと言っても、食べるものも飲むものは無い。
あるのはおしゃれな外観が素敵なスペースと、平日夕方の一時間数百円の場所代だ。
「ロボットが粉々になるまで闘いあって、止めに入った取り巻きの女の子を殺しちゃうなんて…。」
桃子は持っていた本の世界から抜け出し、今日の一大事を語った。
「ロボットって怖い。嫌いなのよ。」
宮桜はそう思い詰めた顔をした。
「…。」
「まだ愛してる?」
「いいえ。もう忘れたわ。」
「そっか。」
「可哀そうね。殺されちゃった子。」
「すべてのロボットが悪いわけじゃない。ミシルちゃんみたいな子もいるし。」
「ミシルさんの事好きね。」
「え?」
「だって、彼女の名前ばっかり。」
「そうかな。でもあの子は本当にいい子だから。」
桃子はそう言って胸に置いていた本の続きを読み始めた。
「いくらロボットでも嫉妬しちゃうわよ。他の女の子の名前だしたら。」
「気を付けるよ。」
「…。」
次の日、ミシルの席の前に一人の女の子が現れた。
それは、同じクラスのロボットの子だ。
肩につかない程度のゆるふわな髪形の子で、席に座るミシルを見下ろしていた。
「ど、どうしました?」
「あの…さきゅばすさんにこれ。私アネルと言います。」
「…。」
ミシルはその手紙を受け取った。
すると、アネルは一礼してその場から去っていった。
ガラ
「はあー眠い。おはようミシルちゃん。」
丁度、さきゅばすは教室に入ってきた。
眠い目をこすりながら真っすぐ隣の席へ座った。
「さきゅばすちゃん。これ。」
「え?ミシルちゃんから?嬉しい!」
「ううん。アネルって娘が。」
「…。」
さきゅばすはそれを無言で受け取ると、手紙を読んだ。
そして驚愕していた。
「うっそ。」
「え?」
「いや…。ああ。やっちゃった。」
「???」
ミシルは首を傾げた。
「でも…ま、いっか。」
「どうしたの?」
「いや、あの子私に好意を持ってるみたい。大好きですって。」
「え?」
「良かったねミシルちゃん。ロボットもやっぱり不死身を好きになることあるんだよ。」
「私だけじゃなかったんだ…。」
「こんな予定じゃなかったけど。」
「何の話?」
「ううん。嬉しいわけないでしょ。私にはミシルちゃんがいるんだから。」
「断るの?」
「どうだろ。ちょっと遊んでみようかな。」
さきゅばすは悪戯にふふっと笑った。
「ふふ。いい景色。」
さきゅばすは桃子が一人でいる光景にうっとりしていた。
「人減ったね。皆休みなのかな。」
「そうかもね。」
と、言いながらさきゅばすはまた何か考えているようだった。
「あの、ミシルさん。」
「?」
廊下でミシルが一人歩いていると、アネルが小走りでやって来た。
そして、ミシルの手を引っ張ると隅の方へ移動した。
「さきゅばすさん、なんて言ってました?」
「え?あ…特に何も…。」
「そうですか…。」
「どうして急にさきゅばすちゃんの事を?」
「気づいたら、彼女の事ばかり考えていて…。私ロボットなのに。」
「私も同じです。」
「え?あなたも彼女の事?」
「いいえ、私が好きなのは桃子さんです。でも、不思議ですね。他の子は恋みたいなの無いのに。私達だけ。」
ミシルとアネルは言えなかった苦しみを話し出した。
「記憶がなくて…。昨日の記憶がどこかに行っちゃったんです。」
アネルはそう首を傾ける。
「私もたまにあります。やっぱり私の型が古いからかな…。」
「私もミシルさんと同じ型かもしれません。」
「じゃあ、きっとそれのせいなのかな。」
二人は他愛もない会話を繰り返しながら廊下を歩く。
「ミシルでいいよ。」
「じゃあアネルで。」
「まさか私にロボットの友達ができるなんて。ずっとさきゅばすちゃんと二人だったから。」
「私も。前は桃子さんが大好きな女の子の隣にいたんですけど、昨日私がいない間に亡くなってしまって…。」
「確か…あの少し怖い茶髪の真緑さんだったよね。」
「うん…。友達になってくれる代わりに手伝ってたの。桃子さんへの対する愛を。でも彼女は私を荷物運びにしかしてなかったみたいだけど。」
「私たちは本来そう言う役割でしかないからね。」
「変えられるかな…。」
「変えられる?」
「私も出来たら自由に恋とかしてみたいって思うの。ロボットにもそういう自由はあってもいいって…。」
「…。」
「ダメかな。」
「駄目じゃないよ。偏見はあるけど、いつかそういう日が来るんじゃないかって私も思うよ。」
「じゃあ、お互い頑張りましょう。」
アネルは彼女の手を握った。
ミシルもその手を握り返した。
「あ、桃子さん。」
アネルは遠くにいる桃子を見つけた。
だが、遠くの桃子は宮桜と一緒に手をつないで消えていく。
「桃子さんにはもう大事な人がいるんだよね。」
「そうだね…。」
アネルの言葉にミシルは悲しそうな表情をしながら続けた。
「宮桜さんって桃子さんと対照的にあまり話さない人だよね。」
「彼女、ロボットが嫌いなんだって。真緑ちゃんが言ってた。昔、なにかあったみたい。」
「私に全然目を合わせてくれない。」
「ミシルちゃんだけじゃないよ。すべてのロボットがダメみたい。ごめんねでもそれ以上の事はよくわからないけど。」
「ありがとう。教えてくれて。」
ミシルがそう笑顔で返すと
「ミーシール―ちゃーん!!!!」
「あ…。」
さきゅばすが手を振ってこっちに走ってきた。
「なにしてたの?」
「お話。」
「さ、さきゅばすさん…。」
アネルは彼女の姿を見ると胸に手を当てていた。
「私に恋するなんて可哀そうな子。」
「それはどういう意味ですか?」
「お友達からでいい?」
「は、はい!!」
さきゅばすのその言葉にアネルは感激していた。