四十五話
「…。」
ミシルは横で無造作に倒れている桃子を見た。
体育館の床に血を流し、うつ伏せで倒れる彼女に、目を細めると無言で右手を変形させた。
「やっちゃいなさい。遠慮はいらないわ。」
さきゅばすはミシルを顎で指示すると、彼女は勢いまま橙に切りかかった。
「データは嘘をつかないね。」
彼女の動きの特性とスピードを読み切った橙は、ミシルが振り下ろそうとした鋸を片手で掴んだ。
「っ!?」
すると、ノコギリ伝いにミシルの体に電気が走った。
「あははは。無駄だよ。私の体の8割は機械なんだ。ミシルみたいな量産品のロボットとはわけが違う。」
「きゃっ!?」
橙は思いっきり彼女を振りとばす。強い力にミシルの体は数メートル吹っ飛んで体育館の壁に衝突した。
「うう…。」
ミシルの体からうっすら煙が出た。
だが、またすぐに立ち上がった。
「君の体にはさきゅばすの超技術が詰まってるから、後で丁寧にバラしたいんだ。だからあんまり傷つけたくないんだよね。」
と言うが、彼女の腕に流れる電流が強まる。
「桃子みたいに気絶してくれない?」
「許しません。こんな事…。」
ミシルはまた自分に強い気持ちを注入すると、少しよろめきながらまた鋸を向けた。
「ミシルちゃん!その電気をなんとかすれば切れるわ!私、何度も実験してその素材も切れるって証明したんだから。」
さきゅばすは橙の腕の硬い素材を判断してそう叫んだ。
「さすが。見ただけで分かるのか。」
「電気でミシルちゃんの力を弱めて切られないようにしてるだけだわ。」
「どうやって止めたらいいの?」
「彼女の電気の流れてる電源を切れば…。」
さきゅばすはそう彼女に言った。
「動きを読んでるのにそんなことできるわけないだろ。今降伏すれば許してやる。」
「しない。私がボロボロになって壊れても、あなたから2人を守ります。どんな姿になってもあなたを成敗します!」
ミシルは2回目の攻撃をしようとまた同じように橙に切りかかる。
「無駄だって言ってんだよ無能ロボ!」
「きゃあ!?」
橙はまた彼女の動きを瞬時に読み取ると、その電気の走る手でミシルのほんの一瞬空いた腹にストレートをかました。
ドサッ
彼女はまた床に倒れた。
そして、体のショートは確実に進んでいく。
「うう…。」
「痛がる君、凄く可愛い。このまま破壊したくなっちゃうよ。」
壁際に倒れるミシルに近づき、不良座りでこちらを見下ろす橙の悪い顔。
「もう終わり?準備体操くらいしか動いてないけど。」
「私は壊してもいいです。けど、桃子さんやさきゅばすちゃん。それに、学校のみんなを滅茶苦茶にするのはやめてください!」
「君1人の条件にその三つは叶えられない。桃子くらいなら救ってやってもいいよ。助けても記憶はないだろうけどね。ミシルの事もこれっぽっちも覚えてないよ?」
「みんなを助けます…。桃子さんだけじゃなく…。」
「無駄だって言ってんだろ。お前の電源はどこだ?桃子を助けてやるから、お前の電源がどこになったのか言え。嘘つくと桃子を殺す。」
「…。」
「5、4、3、2…。」
橙はカウントを取り始めた。
「ミシルちゃん!!」
丁度その時、桃子の声が後ろから聞こえた。
橙が振り返ると、そこには鼻辺りが血まみれの桃子が佇んでいた。
「なあ桃子。正直に言え。正式なミシルの電源の切り方を教えろ。」
「し、知らない…。さきゅばすさんの方が知ってるんじゃないの?」
桃子は分かりやすく目を伏せた。
「さきゅばすに聞いたら何のボタン押させられるかわかんねーだろ。ほら、言えよ。馬鹿正直さん。そうしたらお前だけ助けてやるよ。」
「そんな事…。」
「ミシルには重要なパーツが使われてる筈だからな。さきゅばすにはそれを作ってもらうために必要だ。お前だったら、その恋人を失った悲しみの記憶も、ここでの悲劇もぜーんぶ忘れさせてやる。1からやり直せよ。」
「そんなことできない!それに、ミシルちゃんを壊すことはさせない!!彼女から離れろ!私が相手になる!」
「そっか。なあミシル。あいつを説得してくれよ。俺、桃子のこと殺してしまいそうだから。」
と、ミシルの目の前でそのバチバチと稲妻のような雷が手の中で弾けている。
「桃子さん…教えて下さい。」
「…。」
ミシルの願いに桃子は涙をボロボロと流しながら首を何度も横に振った。
「言えない!言ったらミシルちゃんが殺されちゃう!」
「じゃあ死ね。」
堪忍袋の尾が切れた橙がそう言って桃子に体を向けようとしたその時、
「キスした後、彼女の前歯の真ん中を長押しよ。」
さきゅばすがそう答えた。




