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第33話 有名人


「い、いつの間に……」

「おいあの女、マジで深淵の魔手の知り合いだったのか!?」

「おおお俺は何もしてねーぞ!」

「殺される……」

「フェリから会いに来るなんて珍しいね。もしかして寂しかった?」


 驚愕と共に言い訳を始めた男達を気にも留めず、デュオはいつもの調子でフェリに話しかけた。

 逆に周囲の興味は2人に集まる一方であり、先程まで無関心だった者達までこちらを注視している。


「べ、別にそんなこと言ってないでしょ!」

「えー、じゃあなんで来たの」

「それは……ほ、殆ど毎日会ってたモンを急に見なくなったら、気になるでしょ!」

「モンて酷くない?」

「それにほら! 今後の予定を伝えたりとか色々……色々あるのよ!」

「な、なぁ……深淵の魔手、さん」

「ん? 俺様?」


 これだけ軽い口調で話しているにも関わらず、周囲の人間の緊張は解けなかった。

 男の1人が意を決した様子で、恐る恐るデュオに話しかける。

 それを見てようやく状況を思い出したのか、デュオは周囲をザっと見渡すと男の方に向き直った。


「そういや、コレなに? フェリを殺る気だった?」

「す、スマン違うんだ! アンタの知り合いとは知らなくて……」

「知り合いって言うか、俺様のお嫁サンなんだけど」

「ひぃ!? 深淵の魔手の女ぁ!?」

「ちょっと! 違うでしょうが!」


 深淵の魔手の女――その言葉と共に、闇ギルドに激震が走る。

 空しくもフェリの抗議は、湖面に一石を投じるがごとく広がるどよめきによってかき消された。


「あの深淵の魔手に食って掛かってるぞ! スゲー女だ!」

「おい、あんな女暗殺者見た事あるか?」

「ねーよ! つーかどう見ても魔術師だろ!」

「深淵の魔手が認めるくらい有名な女魔術師……誰だ!?」

「ん? まてよ、女魔術師……もしかして『破滅の魔女』?」

「……え?」


 言葉の応酬にもはや誰が何を言っているのかすら聞き取れなかったが、1人の男の呟きを最後に静まり返る。

 この時彼らの脳内で『深淵の魔手』と『破滅の魔女』が完全に並んだ。

 先程まで下に見ていた小娘の存在が、一気に恐怖の対象へと変わる。


「あの、辺境の村を全滅させたとかいう……」

「数々の森で天変地異を起こし、生態系まで狂わせたっつーアレか!」

「少しずつ首都に近づいて来てて、ついにこの辺に湖まで作っちまったって聞いたぞ!」

「そういや深淵はここに来るまで、アリナリで仕事してたとか……」

「まさか……一緒に南下して来たってのか!? 深淵の魔手の女……破滅の魔女が!」

「概ね正解。フェリも有名になったね」

「違うっての! アンタまで何言ってんのよ……!?」

「深淵の魔手が認めた! やっぱり本当なんだ!」


 違うと否定はしたものの、事実としては間違っていないので自然と語気が弱くなる。

 何より裏世界の象徴とも言えるデュオが認めてしまったのだから、彼等にとってフェリの否定は何の意味もなさなかった。


「深淵の魔手の女……深淵の魔手の……」


 目の前で呆然としていたオレンジ頭の少年は、手に持っていたナイフをスルリと手放した。

 ナイフが床に落ちると同時に、周囲の人間の目に哀悼の意が宿る。「あ、アイツ死んだな」と誰もが思った。


「す……す……」

「ね、ねぇ。あなた大丈夫? 顔色悪いけど……」

「そういえば、フェリに襲い掛かってたっけ。殺っとく?」

「やめなさいっての。なんでアンタはすぐにそうやって……」

「すんませんっっしたぁぁああーー!!」


 この時の少年の行為は、後に闇ギルドで伝説として語り継がれる事となる。

 速さ、姿勢、誠意――全てが揃った、それはもう完璧な土下座であったと。



--------------



「アイト様、そろそろですわよ」

「ああ、わかってる。……フェリはメモを読んでくれただろうか」


 フェリが闇ギルドであらぬ誤解を受けていた頃、アイトとマリアーナはとある場所で息を潜めていた。

 眠れないから起きている訳では無く、正規ギルドで受けた依頼を達成する為だ。

 宿にいたリサには急な出立を伝えたが、出掛けていたフェリにはメモしか残せなかった。


「さっさと済ませて帰れば、問題ありませんわ」

「早く帰れれば良いのだが……」


 アイト達がいるのは、首都ジーハスから少し北上した所にある洞窟だった。

 普通はこんな真夜中に松明無しで潜んだ所で何も見えないのだが、この場所は別だ。

 通称『碧晶(へきしょう)の洞窟』――壁という壁に突き出ている青い鉱石が発光し、常に昼間の様な明るさを保っている為そう呼ばれている。


「おい! テメーらもっと静かにしろぃ!」

「も、申し訳ない。先生」


 アイト達に小声で怒鳴ったのは、一緒に潜んでいるヒョロヒョロとした小男だった。

 2人がようやく見つけた剣の師という立場なのだが、フェリがいれば間違いなく反対したであろう、胡散臭い雰囲気の男だ。

 アイトとマリアーナも少し思う所はあったが、背に腹は代えられないと()()で剣の稽古を頼むことにした。

 その結果、「まずは実戦」という男の言葉に従ってこの洞窟へやって来たのだ。


「! アイト様、来ましたわ!」

「む? あれが……」

「あれがエレミナイトトータスだ! ツイてるぜ……!」


 洞窟の奥から直径5メートルはあろうかと言う大きな亀が歩いて来るのを見て、男が歓喜の声を上げた。

 アイトの全身より太い足でノソノソと歩く亀の甲羅には、エレミナイトという鉱石が角の様に沢山生えている。

 エレミナイトトータスはなかなか巣から出ない臆病な魔物で、何日か張り込まなくてはならない可能性もあった為、遭遇出来たのは確かに運が良かった。


「よし、お前ら行け」

「私とマリアーナだけでですか? しかし剣の腕はまだ……」

「バカ野郎! 剣の腕ってのは実際に戦闘して身につけるんだよ! 弱けりゃ死ぬ、生き残れば強くなるって決まってんだ!」

「そ、そういうものなんですの?」

「心配しなくても、例のブツを手に入れたら手伝ってやる。さっさと行け!」

「わ、わかりました。行くぞ! マリアーナ!」

「はい! アイト様!」


 2人は男の言葉を信じ、剣を手に飛び出した。

 隠れて見ていた時もかなり大きかったが、目の前にすると更に大きい。

 優し気だったエレミナイトトータスの青い目が、突然飛び出して来た外敵を見た瞬間、赤い警戒色に変わる。


「ぐお!? くっ……」


 突然横薙ぎに振られた太い前足を、アイトは辛うじて聖剣で受け止める。

 しかしその衝撃は予想以上に強く、聖剣を構える両腕にビリビリと痺れが走る――その横を、マリアーナが素早くすり抜けた。


「ここはわたくしが! はあ!」


 マリアーナの振り下ろした剣を受け、エレミナイトトータスの首に殴打する様な鈍い音が響いた。

 しかし硬い皮に覆われた首は全くの無傷で、反射的に振り回された亀の頭がマリアーナを直撃する。


「きゃあ!」

「マリアーナ!」

「だ、大丈夫ですわ……!」

「先生! まだですか!」

「うっせぇ! 叫ぶんじゃねぇ!」


 アイトが思わず叫んだ時、ちょうど剣の師が魔物の後ろから走ってくる所だった。

 両手には大きな青い卵を抱えている。アイト達が求めていたのは、まさしくそれだった。

 エレミナイトトータスが巣から出ている隙に、その貴重な卵を入手するという依頼だったのだ。


「手に入ったんですね! でもどうすれば……うわ!?」

「わりーが後は頼むぜ! お前らの事は忘れねーよ!」

「なっ!? まさか……最初からそのつもりで……!」


 何度も振り回される魔物の足を避けながら、アイトは咄嗟に男の袖を掴む。

 すると走っている男の勢いに引っ張られ、男共々地面に倒れ込んでしまった。


「チッ……放しやがれ!」

「そうはいかない! 手柄を独り占めする気か!」

「アイト様! 危ない!」


 距離を取りながら戦っていたマリアーナが、アイト達を見て叫ぶ。

 ハッとしたアイトの目に映ったのは、エレミナイトトータスの巨大な前足――。


「っ……!?」


 アイトにとってそれは、理屈ではない本能的な行動だった。

 自分達を騙し、見捨てて逃げようとした男を庇う様にして、アイトは身を屈める。


(! フェリ……?)


 その時チラリと視界の端を過った光を見て、アイトの脳裏にフェリの名前が浮かんだ。

 何故ならその光は銀色で、彼女の髪と同じくらい、長く美しかったからだ。


「手柄欲しさに死ぬつもりか? 小僧」

「え?」


 澄み渡るようなその声を認識した直後――。

 地鳴りの様な音と共に、強い振動が数秒だけ洞窟を揺らした。

 何事かと顔を上げたアイトの目にいち早く飛び込んできたのは、庇っていた男の怯えた表情……。


「ま、魔剣士レミリア……!」

「魔剣士……レミリア?」


 目を見開いて正面を見つめる小男につられ、アイトは振り返る。

 そこにいたのは、気絶したエレミナイトトータスの上に立つ、銀髪の美女だった。


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