表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

指定席

指定席

作者: mame

初投稿でございます。

文章を書くことについて何も学んでおらず、拙い点しかございませんが、

ご指摘等ございましたらどしどしいただけると大変嬉しいです。

ガタガタと電車に揺られる音が流れている。窓の外では街の景色も流れていく。

早朝の為、少し空いている車内に暖かな日差しが差し込んでいる。


私は7人掛け座席の端へくたりと座り、手すりにもたれている。


 『次は~…』


次の到着駅をアナウンスが告げる。

そして、会社に近づくごとに憂鬱になっていく。


ため息が漏れそうになってくる…



私は志望していたの会社へ入社する事ができ、意気揚々と新社会人を始めた数カ月前。


今は仕事へは慣れてきたものの、問題は社内の人間関係。

あぁ、本当に…もうヤダ…


自分で言うのも何だが、ルックスにはそこそこ自信はある。


そこそこの顔をより良く維持するために安くない化粧品類をいくつも買い揃え、

体型も汗と魅力あるスイーツとの葛藤で、なんとか見栄えあるものになっている。


スーツやヒールも自分の魅力を最大限に活かせるものをと厳選している。


が、その努力の賜物たるものは、社内の下品な男共の為ではなく、

これから出会うべき素敵な殿方へ向けたものなのだというのに。


そんな男共を、セクハラで訴えてやろうか…!とかの内心は全く出さず、

笑顔で躱すと現れるのが古参の女性陣だ。


睨まれる原因の一つに、一人の男が絡んでいる。


入社時から蝶よ花よと世話をやいてくれるのは非常にありがたいのだが、

そのおかげで、古参の方々からの視線が痛いイタい。


しかし、この男は良くない男だと私は考えている。


気の利いた人当たりの良さと、自分のルックスを気にしていない様な立ち回りだが、

言いようのない胡散臭さを醸している。


恐らくだが、この男、女を股にかけるタイプ。

関わると絶対に碌な事にならない、と女の勘がそう告げている。


その為、仕事後のお誘いもそっと袖にし続けていた。


そして視線の痛さが増していくわけで…

本当に碌な事にならないわ。


…まぁ、あと女性陣から睨まれるのは言わずもがな、年齢。

若いというだけでそこまで態度に出さないで欲しいなぁ。



「はぁ…」



本当にため息が出てしまった。




  ―――――――――――――――――――――――― 




周りを見ると座席は全て埋まり、ちらほら立っている人も増えてきた。

腕時計を見ればもういい時間。


ふと正面に視線を向けると、ぐったりと眠りこけた男がいる。

壁・手すり・一人分の座席スペースの全てを巧みに使った素晴らしい寝相。


寝顔は何故か見ているこちらが悔しくなるくらい、素晴らしく幸せそう。


通勤し始めてから数ヶ月、もう見慣れた日常の一部になってきているこの光景。


私もあれぐらい気楽そうな寝顔してみたいなぁ~…

でも、彼は彼で大変な思いで働いているだろうから、楽ではないだろうけど。


あ、よくよく見てみると、案外顔悪く無いじゃん。


ドアが開く音と共に人が流れ込んできた。

私の前に人が立ったので、もう彼の顔は見れなくなってしまった。




  ―――――――――――――――――――――――― 




私が使っている路線はローカル線とはいえ終点は都心近くへ伸びているので、

通勤時間さえ気にしなければ、あまり不自由はない。


が、花咲く乙女としては都心近くでの一人暮らしをしたいのだ。

仕事終わりにおしゃれなお店を見つつ帰宅して、休日は近場の品のあるカフェで優雅に過ごしたり。

時には仕事仲間とショッピングに洒落でみたい。


しかし、家族がそれを許さない。


父は離れた都会での一人暮らしを許さないし、先に家を出てしまったシスコン兄貴は、

「咲良がこっち来るならでかい部屋に費引越して、ルームシェアしよう」と、

とんでもない事をのたまった。


兄の提案に父は両手を上げて賛成し、

母も兄の「オートロックで、駅近の治安のいい場所で、綺麗な所を条件に…」と、

熱弁にほだされ賛成票を入れたのだ。


ちなみにシスコン兄貴は卒業後、スラっと大手企業へ入り、良い金額を頂いているそうなので、

必ずルームシェアを実行するだろう。てゆーか、妹構う前にさっさと彼女ぐらい作れや!


…敵しかいない。どうしたものか…と、考えあぐねる。


私も貯金もないわけではないのだが、現状では引越し費用と家財道具一式、

敷金・礼金もろもろで消えてしまう。しかも、職場近くとなると、、と考えているだけで頭が痛い。


学生時代は学校自体はアルバイト禁止ではなかったが、

父が門限を課した為、自由に働けなかった。


そのかわり何かお金が必要な時は、

父に内緒のお願いすると、そっとお金をくれたので生活には問題はなかった。


ただ、父が将来私が一人暮らしをする事を見越し、

阻止するがために門限をつけたとしたらなかなかの策略家かもしれない。


学生時代は父親なんてちょろいなんて考えていたが、そんな事はなかった。


どんな問題でも、そう簡単には解決の気配は見えない。

また、ため息が出そうだ…



  ―――――――――――――――――――――――― 



物思いにふけっていると、どうやら終点に到着したようだ。

目の前の人がはける頃合いを見て席を立つ。


わらわらと人が流れていく雰囲気を感じつつ、軽く目を閉じる。

気は重いが仕事は仕事、と割りきって今日も元気に出社しますか。

思考を仕事モードに切り替え、カッと目を開き、一歩目。


 ガッ!


誰かに足を引っ掛けられた。


「ひゃっ」

随分可愛くない声が漏れてしまったが、脳裏でこれは綺麗にコケるなーと、

着地先の床を見ながら、服や体を汚さない転び方を考えていた。


今度はガシッと肩を掴まれた。


視界に革靴と男の足が割って入ってきていた。


「大丈夫ですか?」


頭の上から控えめな声がかり、顔を上げるとあの眠りこけていた彼だった。

ちょっと凛々しい顔をしていた。間近で見ると結構彫りが深い顔していたんだ。

私の観察する目と彼の心配する目が合い、私はちょっと驚いた。


「えっ、あ、はい。だいじょう…ぶです」

私は語尾を濁しつつ、観察していた事を誤魔化そうとしていた。

彼が支えていてくれていたので危なげながら立ち上がると彼は、


「足首とか痛めてるない?」


言葉を重ねてきた。

特に痛みもなかったので少し頷いて答えると


「気をつけてね。」


と彼は去っていった。

彼が人混みに消えるのを見た後で、ちゃんとお礼を言えばよかったとちょっと後悔。


しかし、幸先の悪い一日だった。



  ―――――――――――――――――――――――― 



その後、残念ながら彼とは何かあるわけでもなかった。

そもそも接点ないからね。


私が電車のいつもの位置に座るときには、彼はいつもの位置ですでに眠っている。

稀に起きていて読書している事もあるが、十分も持たずに寝落ちている。


日々彼の観察をしつつ出勤し、会社では人間関係に奮闘しつつ、

仕事には全力を持って当たって行った。…時々、砕けそうになりましたけどね。


そんな毎日を過ごしていたら、なんとか自力での引越しの目処が立ってきた。

今は物件探しは妥協に妥協を重ねている真っ最中。


ちょっとした事件が起きた。


電車に乗ると私のいつもの席にもう人が座っている。

季節はもう春。なんだかんだで一年過ぎていた。


先輩たちが一年が早くて困ると言っていたのがわかる一時だった。


だが、そんな事より今日から私はどこに座ればいいだろう?


見渡してみると端の席は埋まっている。

私のいつもの席に座っているのは若い男性だがちょっと御免被りたいタイプ。


その他も優先席やいかつめなおじさんがいるので、気が引ける。


そもそも、ここのドアから離れると終点で降りた際に、階段から遠くなる。

朝から人混みに揉まれる時間は極力減らしたいのでどこか近くに…


目が止まった。


あった。座れる席が。


眠れる彼の隣だ。

彼はいびきもかかないし、ほとんど動かない。

彼自体の安全性はきちんと観察していたので大丈夫だ。


発車のベルが鳴ったのでいそいそと彼の隣へ行き、そっと、座る。

ふっと鼻先にコロンが香る。春先に合わせたさわやかな香り。


彼の近くに来るのはこれで二回目。

前回は慌てていたので気がつかなかたけど、これは新しい発見だ。


今思えば彼はスーツも着回しもきちんとしていて、

季節に合ったものを複数持っているようだった。


あと、重要事としてスーツのセンスは悪くない。

流行にも乗っていたし、彼に似合っているものを着ていた。

それだけスーツにお金が使えるって事だよね。


考えて見れば案外彼って、いい物件なんだろうか。

予想するに性格はぼんやりしているけど悪くはないはず。

収入もそこそこな人。美的センスも悪く無い。


いいじゃないですか。


でもま、そんな人が職場いたら女性がほっておかないよね。


指輪はしていないから、結婚はしてないだろうけど、

恋人ぐらいいるだろう。


って、なんで今私はこんなに彼の事を考えているの?

私が彼の事を観察していた影響だろうか。


そもそも私はなぜ、彼の隣に座ろうなんて思ったんだろう…?


あれ…?どうして…? なんで…? なん で……




「…ません。あのー、すいません…」


頭の上から小さく声がする。

デジャビュを体験しているような感覚。

いや、寝ぼけているんだ!


はっと私は覚醒した。


電車は終点にそろそろ到着する頃合いだった。


「起きました?」


私が枕にしていたものを確認する。

彼の肩だった。


恐る恐る顔を上げる。

ちょっと困っているようだった。


「起きて頂けて、何よりです」


「す、すいません…!」

小さな声で謝罪する。顔から火が出るほど恥ずかしい!


「いえ、こちらもすみません。どうやら私も貴方の頭に寄りかかっていたみたいで…

 髪型を乱してしまったら、すみません。」


彼が恥ずかしそうに頬を掻いていた。

彼の放った言葉が私の想像力を呼び起こした。


 頭を寄せあって眠る二人は、まるでコイビトノヨウ…


無意識に頭の彼が頬を乗せていただあろう場所を撫でていた。

それを見た彼はハッと驚いていて、


「気分を害したなら本当に申し訳ない!」


声は小さいものの誠意の篭った声だった。

私も慌てて、「いえいえ!」なんて言っていた気がする。


彼はほっとする表情をしていた。

そこに私の口が勝手に言葉を発していた。


「前に助けて頂いたので、チャラですね」


彼が固まった。

私も固まった。


「「えっと…」」


声も重なった。


私はうつむいてしまった。

彼かそっと呟くように言った。


「それはかなり前に貴方が転びかけた時の事ですか?」


私はバッと顔を上げた。いや、上げてしまった。

人にあまり見られたくない恥ずかしい表情で。


彼は和んだ表情になり、柔らかな声で言う。


「ありがとうございます」


そして


「覚えていてくれて、うれしいです」


私はどんな表情をしていたかわからない。

ただ、彼は嬉しそうに微笑んでいた。


ゆっくりと電車が減速する。

それにつられ私の体が彼の体へゆっくりと倒れこむ。


倒れないようにと彼が私の肩を支えてくれた。

二度目の彼の手は温かく感じた。


車内に終点へ到着するアナウンスが流れる。


この時、私が決めた事は二つある。


一つめは、引越しを保留にする事。

二つめは、またここの席に座る事。

※2016/04/22 誤字修正しました。

※2016/04/23 ちょっと修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ