愛の絆
女性アイドルとの握手会参加券が封入されたCDがある。そのCDに封入された参加券一枚で、約十秒ほどアイドルと触れ合える握手会に参加出来る。
握手会には毎回長蛇の列ができ、それぞれに参加券を手にしたファンは、アイドルとの夢の時間がやってくるのを待つ。中には一人何枚も参加券を持つ者もいた。
「いつも応援してます」 「ぼくの事、覚えてる?」 「ずっと好きでした」 「結婚しよう」
アイドルに掛ける言葉は人様々だ。
「会えて嬉しかったです」
「本当、ありがとう。またね」
その日、最後のファンとの交流を終えたアイドルの元に、マネージャーがやってきて言った。
「どうもお疲れ様。疲れたでしょ?」
「ううん、まだまだ全然よゆー」
彼女は笑いながら力こぶを作って見せた。
「そう、なら良かった。今日の仕事はこれで終わりだから、表で待たせてあるタクシーで上がって。僕は別の現場があるから、先に失礼するね」
「は~い。お疲れ様でした~」
彼女は手早く帰り支度を済ますと、待機させたあったタクシーに乗り込み会場を後にした。途中、夕食の食材が足りなかった事を思い出し、スーパーに寄ってもらい買い足しをする。
自宅のあるマンションに着き、玄関のドアを開けると、中から出てきたマネージャー、もとい彼氏が、
「おかえり」
と彼女を迎え入れ、アイドルから一人の女性に戻った彼女は、
「ただいま~」
と彼氏の胸に飛び込んだ。
お金できっかけを生み、参加券が繋いだ関係を容易く凌駕するのは、親しき人の愛である。