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前編

段々とヤンデレが姿を現す……筈。



前編軽いというか蛇足だけど、中編、後編は一気に重くなるのでご注意を。

“愛”という言葉に貧富も身分も全く関係ないんだって、彼らと出会って、俺は思い知った。




我が王国には、全寮制の有名な学院がある。

有能な平民や貴族の子息令嬢が集う学院。つまり、入学したらエリートコースはほぼ確実だ。


そういう平民の俺も学院の生徒の一員なのだが、仕事半分で通っているようなものである。

俺は上位貴族の頂点に近い位置にいる、フォグルス公爵家の長女ロゼッタ様の影の護衛だからだ。


護衛というのは大変で、常にお嬢様にちょっかいを掛けようとする不埒者を男女問わず、秘密裏に葬らなければならない。

お嬢様を妬み、悪口や嫌がらせ等をしてくるような女、嫌らしい目で一夜の遊びに誘おうとする男。キリがないし、下手に爵位が高かったり有能だったりするものだから質が悪い。


社交界で紅薔薇と呼ばれるロゼッタお嬢様が大変魅力的で、女性らしい艶やかな色香を放っている為、それに釣られてふらふらと寄ってくる羽虫が多いのは分かる。


だけど、昔からよく言うじゃないか。


綺麗な薔薇には、棘があるって。


ロゼッタお嬢様の場合、棘はロゼッタお嬢様自身を指さない。


ならば、誰を指すのかというと。


「3年の馬鹿な男がロゼッタに手を出そうと画策しているから、早急に股間を潰しておいてね。ああ、ロゼッタが魅力的なのは分かるけれど、ロゼッタは僕だけのもの。僕のロゼッタなんだから、あんな下衆に見せるわけにはいかないよ。いっそのことロゼッタを僕を鎖で繋いで、外の世界に出ないようにしようか」


俺の目の前で、ニコリと誰もが見惚れるような笑みを浮かべ、背筋の凍るような台詞を口にした金髪碧眼の美少年、フォグルス公爵家の長男マーヴィン様だ。

自国の王子様よりも王子様の風貌をしているマーヴィン様は、ロゼッタお嬢様の義弟兼恋人である。


同じ男の筈なのに、かなり冷酷な事を仰る我が雇い主様に、俺は片膝を付き頭を垂れながら、若干内股になるという器用な芸当を披露してしまった。


マーヴィン様に逆らうのと、ロゼッタお嬢様にちょっかいを掛けるが方程式で成り立つ。


マーヴィン様は三月程年上のロゼッタお嬢様の事となると、見境を無くすのだ。


護衛でロゼッタお嬢様の近くにいる俺も、たまに嫉妬の対象として見られることがあるのだが、全力でロゼッタお嬢様をそういった目で見たことはないと否定させて貰っている。

俺はロゼッタお嬢様の侍女が好きなのだ。


まあ、これも全てマーヴィン様がロゼッタお嬢様を大事に思われているということの証なのだろう。


ロゼッタお嬢様に関わる男を使用人以外全て排除し、ロゼッタお嬢様に嫌がらせをしようとする女にそれ相応の10倍返しをし、ロゼッタお嬢様に関わる御友人を自ら選び…………って、過保護すぎやしないか?


取り敢えず、股間を潰すことだけは同じ男として可哀想だったので、適度に痛め付けるという事で妥協して貰った。






――というやり取りを3週間前にやったばかりなのだが、一体これはどういった状況なのだろうか。と、俺は思わずにはいられなかった。


今日は3年生を送るパーティ。これが終わると同時に、マーヴィン様とロゼッタお嬢様と俺の1学年が終了することを意味する。


半刻程前の事だったか、パーティも終盤に差し掛かってきた頃、現在王位継承権第一位の第二王子がパーティホールの中央で高らかに宣言した。


「これより断罪を行う!!」


え?何の?


と問う暇もなく、第二王子の元に1学年在籍の女関係にだらしないという魔術師団長子息、麒麟児と評判の騎士団長子息、堅物の宰相子息、そして我が主人であるマーヴィン様が集った。


何してるんですか、マーヴィン様。何も聞いてませんよ。


仕える主に文句の1つでも言いたくなったが、ロゼッタお嬢様に何かあったら遅いと、学院で仲良くしている友人達からこっそり離れてお嬢様の元へと急ぐ。


その間にも、第二王子は断罪とやらを続ける。


「マリアを虐げてきたエルザとその取り巻き達!出てこい!罪から逃げられると思うなよ!」

「は?」


第二王子の言葉に、思わず声が漏れた。慌てて口を押さえて周囲を見渡すが、幸い誰も聞いていなかったようだった。


群衆から、ピョコンと思わず庇護欲を掻き立てられるようなふわふわとした茶髪の少女が現れる。名をマリアというその少女は、第二王子とヤンデレを秘めたマーヴィン様の間を陣取った。


マリア嬢はつい最近まで、市井で生活していた男爵家の庶子だ。一体親はどんな教育をしてきたのか、と平民の俺が呆れる程の礼儀知らずである。


マリア嬢についてはどうでも良い。問題は、公爵家筆頭のエルザ様とその取り巻き。


取り巻きとひとくくりにされているが、ロゼッタお嬢様はその中の一人……というか、マーヴィン様が選んだロゼッタお嬢様の御友人は、エルザ様とその取り巻きメンバーなのである。


渦中の第二王子の婚約者であるエルザ様の他、騎士団長子息の婚約者、宰相子息の婚約者、そして魔術師団長子息の婚約者であるロゼッタお嬢様。


婚約者がいるのに、ロゼッタお嬢様は義弟と禁断の関係を結んでいる。マーヴィン様とロゼッタお嬢様の関係は一部の者しか知らない。

まあ、ロゼッタお嬢様の婚約者は女性関係の派手な最低な方で、おまけに自身はロゼッタお嬢様から好かれていると勘違いしている自意識過剰野郎だから、俺達使用人からしたらざまあみろって感じだ。


マリア嬢の後に続いて出てきた四人の高位貴族の令嬢達は、醒めた目で置かれている状況を冷静に受け止めていた。


「お前達はマリアに冷水を浴びせ、制服を切り刻み、教科書を墨で黒く染め、ペンを全て折り、寮の部屋を荒らし、靴箱に汚物を詰め込んだだろう!!陰湿で姑息な真似をするような奴等に、次代の国を担う資格はない!この場で全員婚約破棄だ!」

「身に覚えがありませんわ。そして、証拠は何処に?」


熱くなる第二王子と対照的な声でエルザ様は聞き返す。


身に覚えがない、そりゃあそうだろう。


だって第二王子が挙げた全ての事、俺がやったんだから。

マーヴィン様のご命令で。


虐めの主犯格、隣にいらっしゃいますよとマリア嬢に教えたい。実行犯は俺だけどさ。


証拠は一切残していない。

エルザ様の問い返しに、第二王子は証拠を捏造しない限り、答えられない筈だ。

しかし、何を血迷ったのか第二王子はマリア嬢と婚約すると、マリア嬢を抱き寄せて発表した。


マリア嬢は第二王子に嬉しいと言いながら、隣のマーヴィン様をチラチラと気にしていた。


そりゃそうだろうな。

第二王子よりマーヴィン様の方が王子様みたいにキラキラしてて、イケメンだもんな。


何度かエルザ様と第二王子の問答の末、何を言っても無駄だと悟った令嬢達は、呆れと落胆の籠った溜め息をついた。

ロゼッタお嬢様を除いて。


女誑しの魔術師団長子息と婚約破棄出来て、むしろ良かっただろうに。しかしロゼッタお嬢様の紅色の瞳は、今にも涙が溢れ落ちそうになっている。


本当にこれはどういう事ですか、マーヴィン様。


ロゼッタお嬢様はふるふると小動物のように震えながら、か細い声を出した。


「マーヴィン。貴方も疑っているの……?」


そこに社交界の紅薔薇と呼ばれた魅惑的な女は居なかった。代わりに、愛する者に捨てられた子猫のような、か弱い女が居るだけだった。


そこで、初めてマーヴィン様が動いた。


王子様のような穏やかでも、優しくともない、完全に獲物に狙いを定めた肉食獣のような、興奮と征服欲と僅かな狂喜の色を宿した瞳をして、表面上だけは何時ものように微笑む。


「まさか!僕がロゼッタを裏切るとでも?僕が一番信用しているのはロゼッタで、ロゼッタが一番信用しているのは僕でしょう?世界がロゼッタの敵に回っても、僕はロゼッタを信じるし、ロゼッタの敵を排除するよ」


マーヴィン様に、呆気に取られる全てを放置して、マーヴィン様はロゼッタお嬢様に駆け寄る。

ロゼッタお嬢様の真っ白な頬を伝う涙を指で拭い、輝く長い金髪を優しく撫でた。


行動はとても紳士だ。見掛けだけ。


ロゼッタお嬢様の耳元で囁くマーヴィン様の大まかな唇の動きで、俺は大体の言葉を把握してしまった。


『ああ、ロゼッタの泣き顔って何だか凄くぞくぞくするよね。僕の加虐心が湧くというか。泣くときは、僕の前だけにしてね。他の男にもう見せちゃダメだよ。目を抉りたくなるから。どうしてだろうね?ロゼッタを泣かせたい訳じゃないのに、泣いているロゼッタも良いと思ってしまうんだよ』


ヤンデレ超怖い。


その後、3年生だった第一王子がマーヴィン様と共に首尾良く場を収めたのを見て、俺は第一王子とマーヴィン様がグルだった事を悟ったのだ。






それから数後日、第二王子達のパーティでの失態に対する処遇が決まり、王位継承権第一位が第二王子と第一王子入れ替わった。

第一王子は優秀だったのだが、妾腹の子なので王妃の子である第二王子の方が継承権の順位が高かったんだと。


マリア嬢は学院を退学させられ修道院行き、他の子息達も1年間の謹慎とそれぞれ罰が下された。

子供だから、と大目に見られて処罰は甘いものだった。


俺は気になったので、マーヴィン様に何故あのような茶番劇をしたのかと尋ねると、ご機嫌な様子でこのような返事が返ってきた。


「決まってるじゃないか。ロゼッタに嫌がらせばかりして、悪口言いまくってたアバズレとヤリチン元婚約者を纏めて蹴落とせるからだよ。ロゼッタの名を傷付ける事なく、上手く婚約破棄させられたしね。ロゼッタの元婚約者ってだけでも、僕は八つ裂きにして海に沈めてやりたいくらいだったんだから、軽すぎる処罰で済んで良かったと感謝して欲しいね」


秀麗なお顔から想像出来ない汚い単語を連続で発した主人に、俺は引きつった笑みでしか反応できなかった。


マーヴィン様にとっては政治的な事はどうでも良い……いや、次期公爵としてある程度は考慮しているけど、多分ロゼッタお嬢様の為というのが一番の理由ですよね?


そういえばマリア嬢って、影でロゼッタお嬢様に一番嫌がらせしてたよなぁ……。

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