第五話 -弟子入り-
「…………どうすっかなぁ……でもなぁ……」
兵馬は物凄く渋っていた。
「頼む!あんた以外頼れる人がいないんだ!みんな俺のこと敵認識だし!」
それでも俺は食い下がる。
この世界で俺の話を信じてくれそうなのも助けてくれそうなのもこの男くらいだろうし、もし、魔獣?てのがいるのなら少しでも戦えるようになっておかなくては、最悪死んでしまうかもしれないのだ。
俺は割と順応能力には自信がある方で、すでに混乱はしていなかった。
(そもそも侍とかテンション上がるし‼︎)
「……あのなぁ、俺がどーしてお前さんを助けたと思うよ?」
「え、分かんねーよ。何で?」
「……俺はガラにもなくなぁ………占いなんぞを信じて風神様がもたらした救世主なんじゃねぇかと期待しちまってる訳だ。知り合いの占い師が『突如光と共に其の者は現れるであろう』だのなんだのほざきやがったんだよ。
……それが、今ちっと判断に迷ってる」
フウジンサマ……とは何か神様とかだろうか。占いだなんて、兵馬は見かけによらずロマンチストらしい。
俺が救世主……。漫画みたいにヒーローになれたらかっこいいけど、あいにく俺はそんな凄い奴でもない。
「えーっと、俺、救世主とか、がんばってなれたらなるから!弟子にしてください!」
「そんな軽い気持ちで救世主になる奴はいねぇだろ馬鹿野郎」
「あでっ!」
頭頂部に強めのチョップを入れられ、情けなくも涙目になる。
確かにそうだろうけど。
「……う〜〜ん…」
「お願いしまーーーーす‼︎」
こうなったら最終奥義、土下座を出そう。プライドなんてくそくらえだ。
「うわ、お前さん……」
引かれた!だが、こんな訳の分からない世界で生きていくには、強くなるしかない。この男を頼るしかない。
「……あーもー、分かった分かった。取り敢えずは弟子にしてやるから、頭上げろ」
とうとう、折れたのは兵馬であった。
「ホント⁉︎やった!サンキュヒョーマさん!いや師匠!」
「はーー…。取り敢えず、だからな。お前さんがもし本当に救世主なら捨て置けねぇしなァ」
「おう!がんばるよ俺‼︎」
俺は気合いを入れて拳を作る。その時、兵馬がちらと俺の全身を見やった。
「あ、そういやその格好まずいな。兎に角、まずは変装だな、変装」
そうして、俺は町へ繰り出すことになった。
「………着いたぞ。ここが商店街だ。お前さん、着物おかしいんだから適当に旅人の振りでもしとけよ」
「ラジャ!」
その商店街は、案の定現代とは全く違ったが、人が集まり、良く賑わっていて楽しそうだ。
「うわ、すっげぇ!」
「うるせぇ」
ついはしゃいでいると、兵馬に怒られた。
「じゃあ、これと、これと、これと、これで!」
古着屋っぽい店で、適当に着やすそうな着物と帯、下駄を選ぶ。ついでに、先程追ってきた兵士達にばれないよう、襟巻きみたいなもので顔を隠すことにした。
代金はまさかの兵馬が出してくれるらしい。
「まいどありー。変わった格好だね。旅人さんかい?」
兵馬に軽く小突かれ、言われた通り旅人を装う。
「あー、うん、そう、旅人!ここ、いい国だな!」
「そりゃどうも!そう言ってもらえて嬉しいよ」
嬉しそうに笑う店主らしき男を見て、最初捕まった時は恐怖しか感じなかった国民も、やはりいい人達なのだと分かった。
「最後に、これだな」
店を出ると、兵馬が突然頭に黒い布を巻いてきた。
「うわっ、なんだこれ?」
「弟子祝い、だな。これをしてるのが俺の弟子って証だ。俺にはもう1人弟子がいるが、そいつも付けてるぞ」
「まじか!ありがとう!やべーコーフンする‼︎」
弟子の証。俺は取り敢えずでも弟子入りできたことに、改めて喜びを感じた。
変装も完了して、俺のワガママで露店なんかで食べ物を買い食いしながら帰路に着いた。
「帰ったぞー。密、いるかー?紹介したい奴がいる」
道中話していた弟子を呼んだようだ。ヒソカ。異世界なだけあって名前も皆一風変わっている。
「……はっ。主、紹介したい人物とはその男の事ですか?」
「ぎゃわああぁ⁉︎」
いつの間にか背後に、全身黒の忍者服を纏った少女が立っていた。
「……え…⁉︎」
音もなく現れたことより、もっと驚くことがあった。
彼女の顔はーー
「カナ⁉︎」
俺の幼馴染、カナそのものだった。
超展開で申し訳ないです。やっとこさヒロイン登場…!