第四話 -とある侍との出会い-
目的地はそう遠くはなく、すぐに到着した。そこには、森の中に一軒だけ家が建っていた。
……にしても。
「ぜーっ、はぁっ、あ、あんた速すぎだろっ…!」
男の走る速度が速すぎて、俺には付いていくのがやっとだった。
「あー、すまねぇな。
見失わなかった訳だしいいだろ?」
確かにそうだが、物凄く疲れたんだけど。
「まあ、ちょいと中で休むかい?話聞かせてくれよ」
家の中へと入れられ、古風な畳の上に座らせられる。
「言い忘れてたが、俺ぁ兵馬って言うもんだ。お前さんはなんて言うんだ?」
「風上夏。ヒョーマか、あんた変わった名前だな!」
息も整ったころ、ようやく自己紹介をし合った。
俺の名前を言うと、兵馬は眉を顰める。
「風上ぃ?お前さん、なんか良い家の出なのか?」
「え、違うぜ。俺ん家せめーし」
少なくとも金持ちでは無かったと思うが、何故そんな質問をするのだろうか。
「名に風がつく奴も名字のつく奴も、普通王族か貴族や由緒正しい家柄の奴だけなんだが……。やっぱりお前さん、なんか面白そうだ」
「はぁあ?」
このおっさん、意味分かんねぇ。
その後、兵馬に色々質問され、結局起こったことも何もぜーんぶ話してしまった。
「へーぇ、そうかい。
つまり夏、お前さん違う世界に来ちまったのかもしれねぇな」
「ええええ!なんだよそれ⁉︎」
兵馬はさらっと突飛な発言をする。
俺は当然びっくりだが、兵馬は全く当たり前かのように話を続ける。
「だって、この世界にニホンなんて国無いんだぞ?俺ぁ色々経験積んでるがお前さんの話が嘘のようにゃ思えねぇしな。
異世界から何らかの原因…恐らくその刀か?によってこの世界に転送された、と考えられる。
……まぁ、そう不思議そうな顔すんなや。お前さんのいた世界ではあり得ない事かもしれないが、この世界じゃ可能性としては上げれるんだよ」
「それ、マジなのかな!」
「さぁな。そう考えとけばいいんじゃねぇか」
本当に異世界にワープしたのだとしたら、正直ちょっとわくわくする。でも確かに、そう考えたら納得行くかも?無茶苦茶だけど。
「それじゃあ、今度はここのこと教えてくれよ!」
「ああ。いいぜ。まずはこの国だが、風間王国って国だ。
侍…って分かるか?」
「うん!刀で戦うんだろ?ちょーかっけぇよな侍!」
「そうだ。この国はその侍が主流の国なんだ。
ここぁ、昔は大きな戦争もなく平和で賑やかな国だったんだが……」
兵馬の話によると、十数年前に突如、獣が何らかの原因で悪質化して凶暴になった「魔獣」と呼ばれる存在が現れ、国は襲われた。その後すぐ、風間にも数少ない術士の力で結界を作り、今のところ国内に魔獣が入ってくることは無いが、それも何時まで持つか分からない。
そんな中、休戦中だった敵国との戦争も激化し、風間王国は甚大な被害を被った。
新たに兵を養成したりして国は戦力を増やそうとしてはいるが、一向に風向きは良くならないそうだ。
「そ、それじゃ、このままだとこの国、滅んじまうんじゃ……」
「そうだな。間違いねぇ」
そんなファンタジックで危険な状況下、漫画くらいでしか見たことない。耳を疑う内容だったが、それでも今は取り敢えずこの男を信じるしかないのだ。
「……そろそろ話すこともねぇな。他になんか質問あるか?」
兵馬は質問タイムをくれた。実はずっと気になっていたことがある。
「あのさ!さっきの、助けてくれた時、あれどうやったんだ⁉︎一瞬何かが動いたかと思ったら全員倒れてんだもん、びっくりだぜ!」
「あれは普通に峰打ちしただけだ。
まあ、衰えちゃあいるが俺も一応侍なんでね」
「侍‼︎やっぱヒョーマさんも侍だったんだな!」
兵馬が侍という事に、侍のワザを生で見たという事に、ひたすらテンションが上がる。
侍…侍か、そうだ!
俺は、どうしようもなく突飛な提案をした。
「なあなあなあなあ!ヒョーマさん!」
「お?まだ質問あったのか…「俺を弟子にしてください!」
「……何だって?」
そう、俺も侍になるんだ!
今回ヒロイン(?)を出そうと思っていたのですが、予定より展開が進まなかったので……。次話かその次くらいには出ます。多分