プロローグ
俺は風上夏、16歳。そこら辺にいそうな…って言い方は嫌だが、極々普通の男子高校生だ。
そんな俺は、歴史…いや、侍や忍者なんかが大好きで、超超憧れている。
少し離れた所に祖父の家があって、祖父は昔の刀や兜、鎧などの模型を作るのが趣味だ。祖父の家に行った時はいつも見学させてもらっている。
祖父は作ったものは売り出せる程の出来でも一つたりとも手放そうとしない。もっとも、一つ作るのに一年は掛かるから作った数は多くないが。
明日からは夏休み。今日からそんな祖父の家に暫く滞在させて貰える。
と、ほくほくした気分でいると、
「なっちゃーん!夏休み中もいっぱい遊ぼうなあぁ」
「今年こそは海行こう!絶対だぞ夏ー!」
「夏休みさみしい!うおおおん!」
何故か涙ぐんでいる友人に話しかけられた。まさかのガチ泣きしてる奴もいる。
「しょーがねぇなぁ、俺は暇じゃないけど、遊ぶ時間も作ってやるよ!だからさみしくない!てかどうせ夏休み中ほとんど遊ぶだろー?」
釣られて俺も少し涙目になる。
何で夏休みで卒業式みたいな雰囲気が流れているのか、それは涙もろすぎるこいつらのせいの他無い。あ、俺もですか。そうですか。
「でも!今日から5日くらいは無理だから。じいちゃん家に泊まりだからさ!」
「えーーー!またあの兜だかなんだかだろ?あんなもん見て面白いのかよ?」
「ったり前じゃん!羨ましいだろー」
「いや全く」
自慢げに胸を張ると、既に泣き止んだ友人に一蹴される。みんな格ゲーとかでは戦国時代モノ好きなくせに、俺の趣味にはいちゃもんつけてくるんだ。まったくひでぇやつらだ。
「じゃーなー!」
夏休みの遊び計画について4人で長いこと話し合った後、やっと別れを告げた。ずいぶんと経ってしまったようだ。
「そういや、今日も春加さん待ってるっぽいぜ。早く行ってやれよ〜」
「マジか!さんきゅ!…待たせちゃったなー」
俺には幼馴染みがいて、そいつが春加。春加奏。俺はカナって呼んでる。
仲良くなったのは割と最近だけど、今は方向が同じだからと一緒に帰るくらいの仲だ。好きとかそういうんじゃないし、これからも無いと思う。……断言は出来ない。
「あ、ナッツ!遅かったね。まぁた吉野くん達と話してたの?」
カナは俺にナッツなどという謎のあだ名をつけてくる…。正直かっこ悪くてあんまり気に入ってない。ちなみに吉野ってのはさっきの友人。
「ナッツじゃねーってばもー。待たせたことはゴメンナサイ!」
文句×謝罪。悪いことは素直に謝らなければ。
「へへっ、怒ってないからヘーキだよ」
明るく笑いながら許しをくれるカナ。
なんて言うか、カナって懐は誰よりも広いと思う。メチャクチャいい奴だ!
いつも通り談笑しながら帰路につく。そうだ、こいつにも言っとこうかな。カナも結構刀とか興味あるらしいし。
「そういやさ、俺今日からじいちゃん家に行くんだー」
「へー!良かったね。今はなに作ってるって?」
カナの質問に、俺は自分でも分かるくらいに目を輝かせる。
「そう!今、なんかすげぇ刀を作ってるらしいんだ!もうほとんど作業は終わってるらしいけど。とにかく貴重だけど、無名なんだってよ。じいちゃんはそんなモンばっか作るからなー!なんだっけな名前……」
俺は刀やなんかは好きだけど、いかんせん知識として蓄えるのは駄目だ。だから祖父から刀名を聞いても分かるはずも覚えられるはずもない。所詮俺は憧れだけのにわかなんだ。
「……あははっ、ナッツって分かりやすいなぁホント」
「えっ、んなことねぇだろ⁉︎」
目を輝かせていたのが急に拗ねた表情になったのだ。分かりやすいと言われてもしょうがない…ということに俺は気付いていなかった。
「じゃあ、また今度……夏休み明けかな?」
分かれ道に差し掛かり、カナが控えめに手を振る。
「おー!またなー!」
大きく手を振りかえすと、少しずつ遠ざかっていくカナも負けじと大きく手を振る。
……その笑顔に、好きにならないってのはもっと断言が出来なくなった。
帰宅し荷物をまとめると、早速弟の蓮と両親を急かしに行った。
「早くしろー!」
「うるさいにいちゃん!」
……逆に怒られた。
長ったらしいプロローグですみません。もう直ぐ異世界突入です!
ヒロインっぽいカナちゃんですがもうほとんど出てきません。主人公の脳内くらいです。