首つりバレンタイン
「よお、知ってるか?」
教室でいきなりメガネが俺の机に手を突いた。がたがたと空いていた前の席に座る。2月14日の、雪が舞う寒い日のことだった。
「何がだ?」
俺は冷たくこたえておく。
「『首吊りチョコ』ってやつ」
「ああ、都市伝説か」
冷たくこたえておいた。目の前に座ったこいつは俺の反応が気にくわないのだろう、くいっとメガネをずり上げる。
「ああ、都市『伝説』な」
「……引っかかる言い方だな」
に、とメガネ。得たりと続けた。
「伝説ってのは都合が良かったり派手だったり聞こえのいいとこだけ残るモンだよ」
「何が言いたい?」
「お前、女子から本命チョコもらったか?」
身を乗り出して聞いてくる。長い前髪が当たるだろ、と身を引いておく。
するとメガネ、ちっと舌打ちして引く。
「さあね。いくつかもらったが開けてないんで本命か義理か分からん」
「『首吊りチョコ』が交じってるかもだぜ?」
ニヤニヤ指摘してきた。
「食べたら首を吊るのか? ばかばかしい」
「だろ? ばかばかしい。……だから伝説なのさ。本当はな?」
楽しそうに人差し指を立てる。細めた目がいやらしい。
「首がつるのか?」
「それ」
にこ、と笑いやがった。
「ばかばかしい」
「ばかばかしいか? 女は怖いぜ?」
得意げに続ける。
「いいか。女は怖いぞ? まず、首吊りチョコをバレンタインのチョコとして贈るだろ? で、意中の男が食べる。で、首が痙攣してつって呼吸困難で倒れる。そこで待ってましたと女は倒れた本命の男に人工呼吸、って寸法だ」
「ばかばかしい」
笑った。さすがに笑う。そんなわけないだろう。
「じゃ、試してみるか?」
そう言ってメガネはチョコの包みを差し出してきた。
「ばかばかしいと思うなら今ここでこのチョコを食べてみろ」
チョコの包みは、大きなハート型。リボンも包装紙も気合いが入っている。
「ばかばかしい」
俺はそれを受け取らず、代わりに大きなハート型包装のチョコをメガネの鼻先に差し出した。リボンも気合いの入っているチョコだ。
メガネはぱああ、っと一瞬うれしそうな表情をする。
頬も赤らめているではないか。
が、その瞬間!
「な、なん……だと?」
雪の舞う曇り空から日が差したのとほぼ同時に、姿を消した。もちろん、日が差したから消えたのではない。
「あいつから塩チョコだ、って聞いてたが……まさか清めの効果もあるとはな」
後輩からもらったチョコをしげしげと見つつ感謝した。
メガネの男は、数年前に自殺している。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
先月アップした自作「首吊りチョコ」と対になる作品です。
本当は時節柄ホワイトデーネタを書こうとして気付けばこれを書いていたのは内緒です。