(七)留飲を下げる妹
三年の間に、ワガママ妹は一部始終を黙って聞くだけの忍耐力は身につけていた。
「ありえない」
事の顛末を聞き終えたルルはベッドに仰向けて倒れた。右腕で目を覆い呻く。
「なんのために邪魔な近衛騎士殿をおびき出したと思ってんの。信じられないわ」
王室関係者のサディアスがいようとおかまいなしに無防備な姿を晒し、文句をたれる。完全に素の状態だ。
「今から殺りにいこうかしら」
ちょっと散歩に出るような口ぶりで物騒な発言。いつからこんな不良になったのだろう。生意気ばかり言っていたが根は優しい子だったのに。やはり『暁の魔女』などという秘密結社に行かせるべきではなかった。ジキルは激しく後悔した。
「さっきから訊いてばかりで悪いんだが」
遠慮がちにサディアスが口を挟む。事情を知らないのだから当然の反応だ。
「以前話した例の、家出した妹」
「はじめましてルル=マクレティともうします」
ベッドに倒れたままで棒読み挨拶。行儀の悪さを咎めようとしたところで、ルルが勢いよく身を起こした。
「兄さんはそれでいいの?」
「え?」
「兄さんはそれで納得しているのかって訊いているの」
「納得も何も……」
仕方ないことだ。言いかけてジキルは口をつぐんだ。ルルの眼差しが厳しさを増したからだ。これがいけないのだ。ジキルの物わかりの良さをルルは嫌っている。
「納得してるよ」
言葉に嘘はない。ルルのためだとか耳障りのいい言葉で誤魔化す気もなかった。復讐にキリをつけたのはジキル自身であり、誰のためでもなかった。
「当時の関係者の失踪もブレイク伯爵が指示したらしい。伯爵夫人が証言してくれたから、ちゃんと罪に問える」
「火刑にはならないんでしょ」
「難しいね。でもあんたの無実は証明した」
「それはどーもごくろうさん」
投げやりな態度は拗ねているようにジキルの目には映った。
「……終わったのね」
ルルが呟いた。寂寞とした表情だった。安堵しているようでもあった。ジキルは意を決して口を開いた。
「なあ「帰らないわよ」
即刻却下。お見通しだったようだ。ルルは腕を組んだ。
「まだ終わっていないもの」
「ルル」
「勘違いしないでね。ノイラの連中を皆殺しにしようとか、そんな非現実的なことは考えてないわ。一番の目的だったブレイクは報いを受けるわけだから、これはこれで終わり」
「まだ何かあるのか?」
ルルは目を伏せた。ベッドの縁に腰かけ、足をゆらゆらと揺らす仕草は途方に暮れた子供のようだった。
「……確かめたいことがあるの」




