(四)仲睦まじいお二方
「よくギデオン王子が黙っているな」
いくら自分が従姉妹にうつつを抜かしていようが、婚約者が別の――それも一介の貴族に夢中なのは気分が悪いだろう。世間体という観点からもよろしくない。自分のことを棚に上げて責める姿が容易に想像できた。
ジキルの独り言に近い呟きに、サディアスは目を伏せた。
「まあ……政略結婚だからな」
言い聞かせるような口振りだった。ジキルに、ではなく自分自身に。痛ましげな表情を見せるサディアスの顔をジキルは覗き込んだ。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
とても「なんでもない」ようには見えないが。
取り繕うようにサディアスはジキルに剣の稽古を申し出た。クレオンがリリアに取られてしまったので、それが自然の流れといえばそうなのだろう。
だが、自由になった今のうちにやっておきたいことがジキルにはあった。
「近くにいる友人に挨拶しておきたいんだ。晩餐までまだ時間もあることだし」
クレオンも連れて行こうと思っていたのだが、無理に二人の間に割って入るのは気が引けた。ジキル一人が行けば事足りる。今までがそうであったように。
しかし、サディアスが意外なことを言い出した。
「俺も一緒に行ってもいいかな?」
「構わないけど……なんで?」
サディアスは肩をすくめた。わかるだろう、と言わんばかりに視線を南向きの部屋に流した。一番豪奢で大きな部屋におわすのは言わずもがな王太子殿下。
それでジキルはおおよそを察した。晩餐で胃を痛めているのはクレア一人だけではない。たしかに気晴らしにはなるだろう。
ジキルは噴水の方に目をやった。
会話を終えて離れたかと思いきや、二人はさらに距離を縮めていた。リリア嬢に右腕を取られたクレオンは、引きずられるようにして庭園のさらに奥へと向かう。
仲睦まじい二人の間にジキルが入る余地はなかった。
「大したものはないけど、それでも良ければ」




