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  (二)再び現れた無礼王子

 散々振り回した魔剣は限界を訴えていた。ジキルは刃に刻まれた傷を指でなぞった。刃こぼれなどという生易しいものではなかった。折れていないことが不思議なくらい脆くなっている。

「修理が必要だな」

 向かいに腰かけるクレオンも同じ判断を下した。おいそれと手に入らない魔剣なのだから当然とはいえ、ジキルには悩ましいことだ。刃にウリム銀を使うため鍛え直すとなると普通の剣が十本は買える金額になる。痛い出費だった。

「いっそ新しく魔剣を造ったらどうだ。オルブライトの魔導石を持っているんだろう?」

 ご指摘の通り、邪竜ことソリ=オルブライトを倒した時に得た魔導石がある。長年一国を悩ませてきた竜だけあって、魔導石としての質は高い。刃を一から造るのと大差ないのであれば魔剣を造るのも一つの案ではある。

 ジキルが、魔女でなければ。

 魔剣を替えるという選択肢は最初からなかった。ジキルが扱える魔剣は、自分が抱いている魔導石と反発作用を起こさない〈ノエル〉だけだ。

「慣れている剣の方がいざという時も扱いやすいから」

 と言葉を濁していたら、馬車が停止した。今日の宿泊場所に到着したようだ。ジキルは別行動だったので知らなかったが、行きも利用した屋敷らしい。保養所として貴族の別荘がいくつか建てられている中の一つ。

「あ、」

 馬車から降りて、ジキルは目を瞬いた。屋敷の前で出迎える護衛の騎士と使用人。その中に見知った顔があったからだ。

「久しぶりだな、ジキル」

 爽やかな笑みを浮かべて挨拶したのは、近衛連隊長のサディアスだった。騎士の制服を身にまとっていることから任務中だと伺えた。そして彼が仕えているのは――果てしなく嫌な予感がした。

「まさか」

「悪い。そのまさかだ」

 サディアスが苦い顔で囁いたその時、背後から彼は現れた。

「クレアはどこだ」

 開口一番がこれ。挨拶をすっ飛ばす無礼が許されるのはひとえに彼が王族だからだ。ジキルよりもクレアよりも偉いのである。ジキルはだいぶ板についてきた貴族の礼を取った。

「ギデオン王太子殿下に置かれましては、ご機嫌麗し」

「質問に答えろ。クレアはどこにいる」

 あれ? このやりとり前にもしたような気がするな。既視感を抱きながらもジキルは「馬車の中におります」と正直に答えた。一ヶ月程度で劇的な変化を期待するほどおめでたくはないが、ギデオンは変わらなさ過ぎた。

 決して叶うことのない恋に盲目中のリーファン王国第一王子、ギデオン=リム=レティスは早速馬車へと迫ってきた。

「殿下」

「わかっておる。しかし挨拶くらいは礼儀だろう」

 必要以上に近づく無礼をサディアスが諭そうがなんのその。馬車のすぐ傍に立つとギデオンはわざとらしく咳払いをした。

「奇遇だな、クレア。息災か? パーセンではずいぶんと大きな騒ぎに巻き込まれたと聞いていたが……」

「殿下、申し訳ありません。気分がすぐれませんの」

 馬車から顔すら出さずに一言。

 ギデオンの猪突猛進ぶりは今に始まったことではないが、クレアのこの冷たさも相当なものだった。ジキルはそれとわからないよう、硬直したギデオンに憐憫の眼差しを注いだ。

「ではなおのこと休まねば」とめげずに言い募るギデオンを、半ば強引にサディアスは引き剥がして部下に屋敷に連れていくよう指示した。

「何をするのだ、サディアス!」

「お察しください」

 やたらと手慣れた対応だった。クレアに次ぐ被害者はサディアス以下近衛兵達なのかもしれない。引きずられるような格好で連行されていくギデオンを見送り、ジキルは呟いた。

「……奇遇?」

「たまたま体調を崩されて、保養所として強くご希望されたのが、たまたまここだった」サディアスはため息をついた「表向きはそういうことになっている」


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