(七)拒絶された田舎者
特に名案が浮かぶこともなく遅めの昼食が終わったところで、ロイスは夕方に向けての仕込みを開始。特に手伝えることもないのでジキルは半年放置した自室の整理と、時間があればこっそり納屋の修繕をしておくことにした。本格的な冬を迎える前に屋根は直しておくべきだ。
屋敷に戻るというクレオンとは『にくきゅう』の前で別れることになった。その際、
相変わらず無愛想な彼に歩み寄ろうと右手を出す。
「短い間だと思うけどよろしく」
ジキルが差し出した手をクレオンは訝しげに見下ろした。
「なんのつもりだ」
「俺達は同志だ。握手しよう」
「そういうことを言っているんじゃない。何故僕がお前なんかと握手しなければならないんだ」
「しなきゃいけないわけではないけど、やってはいけないわけでもないよな? これから同志として一緒に頑張るわけだし」
「同志? 一緒に? 誰がだ」
クレオンは苛立ちを隠そうともせずに端整な顔を歪めた。腰に差した魔剣を抜き、切先をジキルに突きつける。
「僕はお前のようないい加減な奴は信用しない。一緒に何かを成そうなんてもっての外だ」
初対面の時よりも攻撃的だ。先ほどまでの和やかな時間は一体何だったのだろう。絶句するジキルにクレオンはさらに言った。
「知能の低い田舎者でも理解できるように言ってやる。僕はお前みたいに、家を飛び出していながら悪びれもなく帰ってくるような身勝手で無責任な奴なんか大嫌いだ。決闘の真っ最中にへらへら笑っているのも腹が立つ。卑怯な手段で報酬を得て、恥ずかしくはないのか。見ているだけで苛々する」
大嫌いとまで言うか。硬直したジキルを放置して、クレオンは剣を納めると踵を返した。
男にしては華奢な背中が遠ざかる。やがて完全に見えなくなる頃になってようやく、ジキルは呟いた。
「……駄目だこりゃ」