(四)闇色に染まる姉
ジキルは執務室の椅子に腰かけた。革張りの豪奢な椅子は主の地位を誇示する意図があるのだろう。座り心地は悪くない。
ペン立て、手紙用の蝋と必要最低限のものしか置いていない執務机。引き出しには全て鍵が掛かっていた。徹底した秘密主義は後ろめたい過去を覆い隠すためか。
「無駄だと思うよ」
耳元で囁く声に顔を上げる。毎度おなじみジキルそっくりの幻影が傍らに控えていた。
「君は一体何を期待しているんだ。あの人間が命を助けられたことに感謝して、これまでのことを悔いて詫びるとでも?」
「まさか」
「君がやっていることは、あの人間にさらなる罪を重ねさせているだけだ」
自称『ノエル』はジキルの前でわざとらしく指折り数えた。
「私が把握しているだけでも六人。少なくとも君が旅立ってすぐに奴を殺しておけば、あの六人は殺されなかった。奴が保身のために殺した人間の数は、この三年だけでもおそらく両手では足りないだろう」
金色の目が意地悪く眇められる。
「それとも君は待っていたのかい? あの人間が口封じのために君たちの仇を殺してまわるのを」
「いい加減に――」
早くも堪忍袋が切れそうになった時に、執務室の扉が開いた。ノックもなく――当然だ。自分の部屋に入るのに了承を得る必要はないのだから。
部屋の主であるブレイク伯爵は、執務椅子に居座るジキルの姿を認め、目を大きく見開いた。何故ここにいるのか、わからずに驚いている。それも当然だ。彼の描いていた計画では、この場にジキルはいない。町はずれにある廃屋にいるはずなのだ。
「正直に言いなよ」幻影が消える間際、ジキルに嗤いかけた「本当は嬉しいんだろ?」
憎悪、怨嗟、そして歓喜に縒られた笑みは、先日見たルルのそれと酷似していた。
短くてすみません。今回はきりのいいところで一旦区切ります。
今更ですが、この章でパーセン編(仮)は終わります。たぶん。




