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  (二)呼び出した妹

 その日の夕刻、クレオン=ベリィレイトはパーセンの市街地へと足を運んだ。

 大通りから少し離れた地区にある料理屋。富裕層や貴族が利用する程度には高級な店だった。外観はもちろん、内装も華美。訪れる客も上品な身なりをしている。

 予約されていた席に案内され、待つこと数分。

「ここ、よろしいかしら?」

 形式的な伺いをたてながらも、そいつはクレオンが口を開く前に椅子を引いた。

 クレオンは目を眇めた。相手の無礼に対する不快感のあらわれ――ではない。強いて言えば不審。何故自分をこんな場所に呼び出したのか。目の前の人物が一体何を企んでいるのか全く読めないからだ。

 我が物顔で向かいに座った少女は、胡乱な眼差しにも不敵な笑みで相対した。自らの優位を確信している表情だった。服装が違う程度で先日見た時と変わりない。少し癖のある金髪を白いリボンでまとめ、質素だが品の良い礼装に身を包んでいる。

「いつも兄がお世話になっております」

 白々しい挨拶にクレオンは鼻を鳴らした。

「まったくだ。パーセンにまで足を運び散々振り回された挙句、兄妹喧嘩に巻きこまれるとは、迷惑極まりない」

「あら、ごめんなさい」

 とは言うものの、ルル=マクレティに悪びれる様子はなかった。警戒しているようにも見えなかった。相手は指名手配こそされていないが秘密結社『暁の魔女』の一員。クレオンの立場からすれば、騎士団、あるいは警察軍を動員して逮捕すべき人物だ。当人とてそれはわかっているはず。

「御礼がまだだったわね。復讐の邪魔をしてくださってありがとう」

「礼には及ばん」

「あなたは良くても私の気が済まないわ。近い内に改めて『御礼』をさせていただきますので、楽しみにしてくださいな」

「嫌味を聞かせるためにわざわざ僕を呼んだのか?」

 クレオンは白地の封筒を机に差し出した。レオノーレから受け取った手紙だった。差出人は目の前にいる人物。人目につかない場所で会いたいという内容だった。

「取り調べの進捗具合を伺えればと思って」

「騒ぎを起こして面目は丸潰れだろうが、大した罪には問われない。死人も怪我人も出ていないからな」

「私の母を殺したのに?」

「証拠がどこにある。当時を知る者はもうほとんどいない」

 そのわずかな証人でさえブレイク伯爵に抹殺されている。仮に残っていたとしても、関与していたことを認めたら厳罰を免れない。罪に問われることを覚悟で告発する者がいるとは考えられなかった。

「そう、じゃあ火刑にはならなさそうね」

「なるわけないだろ。隠し財産を奪うだけでは満足できないのか」

「あなた何言っているの?」

 ルルは目を瞬いた。

「全財産を差し出されたって私は赦さないわ。あいつは、私達の母を殺した。罪人として汚名を着せて、拷問して火に掛けたのよ。同じ罰を求めるのは当然でしょう。ただ殺すだけじゃ飽き足らないわ。身体を痛めつけてなぶり殺しにするのも魅力的だけど、一番効果的ななのはあいつが命ほどに大切にしているものを一つずつ奪うこと。今まで築き上げてきた名声、財産、地位――」指折り数えてルルは手を払った「全部打ち砕いて最期はあいつ自身も潰す。でなければ、わたしは何のために魔女として生まれてきたの? 母親を殺されるため? お偉い貴族様方に魔導石を差し出すため?」

 感情に任せて声を荒げるような愚は犯さないが、その目には激烈な意志が込められていた。クレオンは圧迫感を覚え、同時に違和感を抱いた。魔女の血は親から子へ受け継がれる。ルルとジキルの母親のレナも魔女だったはず。しかしルルの口ぶりでは、まるで自分が魔女であるせいで母親が死んだようだった。

「物乞いをして、泥水をすすってでも生き抜いてきたのは、あいつらに思い知らせてやるためよ」

「では何故、伯爵を仕留めなかった」

「邪魔したあなたがそれを言う? もちろん殺すつもりだったわ」

 嘘だとクレオンは直感した。いや、半分は当たっているのだろう。少なくとも最初はブレイク伯爵を殺すつもりだった。が、途中で改めた。おそらくはジキルが乱入した時からだ。実の兄の前では人殺しができない、という感傷的な理由ではないはず。何か意図があってルルは自らの手でブレイク伯爵を殺すことを断念した。


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