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  (七)喧嘩する姉妹

 弾丸に近い速度で水晶が飛来した。その数、十は下らない。ジキルは大きく飛び退きかわそうとした。が、器用にも水晶は中空で軌道を変え、追尾する。

 ジキルは投擲用の短剣を放った。刃が触れた瞬間、水晶は爆発。周囲の水晶も巻き込まれ、連鎖的に爆発が起こる。熱風を頬に感じながらも、ジキルの背中には寒気が走った。この威力、数、高速で撃ち出しなおかつ軌道修正する技術、間違いなく一流の魔法使いのものだ。

 爆発を免れた残りの水晶が迫る。ジキルは魔剣ノエルを鞘から抜いた。斬り捨てる――ためではない。そんなことをしようものなら爆発をもろに受ける。裂帛の気合と共に、ジキルはノエルを水晶に向かって投げつけた。

「は?」という呆れ声がルルの唇から漏れた。

 着弾と同時に爆発。上手い具合に残りの水晶も共に爆発する。爆風で吹っ飛ばされたノエルは床に乾いた音を立てて落ちた。

「……魔剣を投げる奴なんて初めて見たわ」

「実の姉を殺そうとする妹なんて初めて見たよ、俺は」

 こちらの皮肉をルルは鼻で笑った。

「ところで、それがソリ=オルブライトを屠った魔剣? 一体どこでそんなものを拾ったのよ。竜の鱗を貫通する魔剣なんて、そうそうないと思うけど」

 ソリ=オルブライト。聞き慣れない名にジキルは眉を顰めた。邪竜オルブライトに正式名称があるなんて初耳だ。

「切れ味を強化する魔法が組み込まれているのならわからなくもないけど、そうは見えないのよね。今だって、魔導石が発動していないようだし」

 ルルの考察は当たっている。魔剣ノエルの力は「切れ味の強化」などというものではない。変な幻影が時々現れる欠点があるものの、魔力の感知やその他多彩な能力を発揮する、非常に特殊な力を秘めているのだ。

「欲しい?」

 ジキルは拾い上げた魔剣ノエルを掲げた。

「気前いいわね。くれるの?」

「今すぐに悪いお友達との関係を切って、レムラに戻ると約束してくれるのなら」

「前言撤回するわ」

 ルルは再び水晶を生み出した。先ほどよりも圧倒的に多い数だ。

「『お友達』とかふざけた呼び方はやめて。別に私はあいつらと友達でもなければ仲間でもない。ただ、目的のために協力しているだけ」

 嗚呼ルルよ、お前もか。殺伐とした物言いは、クレオンを彷彿とさせた。誰にも心を許さず、誰も信用しない。ただひたすらに目的に向かって進む姿は生き急いでいるように見えた。

「文句も言えないようにしてから、その魔剣はいただくとするわ」

 強盗宣言と同時に水晶の軍団が飛来してきた。今度は捌き切れる量ではない。ジキルは覚悟を決めた。無論、死ぬ覚悟ではない。

(いくよ)

 ノエルの切っ先を床に向け、勢いよく突き刺した。用意していた煙幕弾を、これまた床に叩き付ける。爆発的に巻き起こる白い煙に、ジキルとノエルは包まれた。

「そんな目くらましが通用するとでも!」

 嘲弄するルルの声。視界を閉ざされている状況下で、狙い違わずに水晶は「標的」の場所を正確に把握し、追尾した。執拗に、一つずつ。爆発に巻き込ませて一網打尽にさせないためだ。

 やむなく水晶の一つ一つを斬り捨てる羽目になる。何度も、何度も。爆発が床を砕き、粉塵を巻き上げてもなお猛攻は止まない。

 断続的に続く爆発に、ルルは怪訝な表情を浮かべる。小規模とはいえ、石をも砕く威力だ。一撃でも喰らえば動けなくなるはず――が、いくら考えても、もう遅い。

「ルル」無防備な背中に向かって、ジキルは声を掛けた「喧嘩で俺に勝てるともで思ったのか?」

 自慢にもならないが、ジキルは姉妹喧嘩で負けたことは一度もなかった。


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