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  (四)憎悪に歪む姉妹

 偶然が三回以上続くことを『仕組まれた』と言う。そんな単純なことに村の誰一人として気付かなかった。

 異常気象の予兆もなかったのに何故川の水が干上がったのか。

 山の小動物達が一斉に覚醒し魔獣となったのは何故か。

 何故一連の災害が魔女の仕業だと断言されたのか。

 そして、ブレイク伯爵が領主として着任した途端、全ての問題があっさりと収束に向かったのは――何故なのだろう。

「そ、そんなことが、私にできるはずが……」

「元々、肥沃な土地じゃないもの。水源を土砂で塞げば干ばつなんて簡単に起こるわ。魔獣の大量発生だって、魔導石があれば可能。魔女に罪を着せれば、勝手に村人達が魔女を殺してくれる。いくらでも魔導石を調達できるわ」

 クレオンはかぶりを振った。

「馬鹿な。無差別の魔女狩りは王国の法で禁じられている。さしたる証拠もなしに魔女を捕らえられるはずが」

「犯罪者なら別だよ」

 ジキルは深く息を吐いた。同じような発想をしてしまう自分が嫌だった。

「誰かにそう告発させれば、犯罪者になって合法だ」

 そもそも魔女は住民登録すらまならない。勝手に領地内に住み着いたら違法入国。一般人と称したら虚偽報告。叩けば埃が出る身だから、いくらでも罪はでっち上げられる。合法に『処刑』ができる。そして誰にも咎められることなく上質な魔導石が手に入る。

「それに、当時のノイラに王国法なんて関係ない。王国の管理外の小さな村で魔女を生贄にしたとしても、その地方の風習だと言えばいい。全て村の責任にして悪習断絶と称して兵を派遣。管理を徹底すれば、誰も文句は言わない。ノイラはそうして近くの町に吸収合併された」

 クレオンはブレイク伯爵を睨んだ。身を竦め、後ずさる元・ノストラ地方領主。

「ち、違う。……わ、私は、そんな、」

 弁明するも遅い。死神を前にして懺悔をしても無意味なのと同じことだ。遅過ぎたのだ。

「いけない、私としたらお礼を言い忘れていたわ」ルルは嗤った「そういえば、ノイラの人々のせいで母さんを失った私達に、心優しい領主さまは金貨を十枚も下さったわね」

 かざした手に古びたコインが現れる。見覚えはあった。ルルが家を飛び出した時に持ち出したものだ。

「ありがたくいただいたわ。たった金貨十枚とはいえ、私の母の代価ですもの」

 それが限界だった。ブレイク伯爵は腰が砕けたようにその場にへたり込んだ。顔に浮かぶのは恐怖。口の中でかちかちと歯を鳴らし、指先までも震わせる。

「事の真偽を問いただす必要がありそうだな」

「その必要はないわ。罪状なんて後からつければすむことよ、ねえ元・ノイラ領主様?」

 蛇に睨まれた蛙のごとくブレイク伯爵は顔を引きつらせる。地方一帯を治める領主が、大勢の魔女を処刑した権力者が、たかだか十四の小娘に怯えて身を縮めている。その姿は惨めで、そして哀れだった。もう十分だと思わせるほどに。

 こんな男に母は殺されたのだ。虚脱感にさいなまれながらもジキルはルルに訊ねた。

「まだ続けるつもりか?」

「当然でしょう。私がやることと、あいつらがやったことにどれだけの差があるというの? あの村の連中は食糧と引き換えに私の母を売った。たかが魔導石一つを手に入れるために、こいつらは母さんを殺した!」

 こいつら――複数形であることが、非常に気になった。

「パーセンで失踪していた六人は、まさか」

「七人よ」ルルが訂正した「ここに来る前に、警備隊長には私から『お礼』をしておいたわ」

 ジキルは目を伏せた。シゴルヒ警備隊長のふてぶてしい面構えが思い起こされる。

 向こうは初対面だと思っていたようだが本当は違う。当時は一介の兵士。母を儀式場という名の処刑場に引っ立てた男の一人だった。まるで家畜でも連れて行くかのように母の首にかかった鎖を引っ張る姿は、何年経っても忘れようがない。

「お前も相当に救いようのない奴だな」

 呆れたように言い捨て、クレオンは剣の柄に手をかけた。

「もともと救われたいなんて思ってませんから」

 ルルは歯牙にも掛けず、ヴィオレッタを無理やり立たせた。呆然とする彼女の手に再び短剣を握らせる。

「最後のチャンスをあげる。それで伯爵を刺せたら、首に下げた魔石も外してあげるし、大橋も壊さないであげる」

 背中を押されたヴィオレッタはよろめき、ブレイク伯爵と対峙することになる。途方に暮れる伯爵夫妻にルルはさらなる追い打ちをかけた。

「さあブレイク伯爵様、愛する妻と自分の命、どっちを取る? あなたが決めていいのよ」ルルは嘲るように笑った「愛する自分が完成させた大橋、の間違いかしら?」

 ジキルはブレイク伯爵を庇うようにして前に立った。

「兄さん、邪魔よ」

「当たり前だ。邪魔するつもりなんだから」

 ルルは呆れとも苛立ちともつかない顔でねめつける。

「それはまあ、お優しいことで。母さんを虫けらのように殺した奴を助けるなんて、私にはとてもできないわ。さすがお兄様、出来た人ですこと」

 安い挑発だ。わかっていながらもジキルは怒りを、憎しみを覚えずにはいられなかった。

 母は生きたまま火に焼かれた。悶え苦しむ様を連中は笑いながら見ていた。嘲笑い、罵詈雑言を浴びせて、母を殺した。

 ルルの嘲弄が最後のひと押しだった。

「偽善も大概にすれば? 自分だって殺したいと思ってるくせに」

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