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  (十)憔悴する領主

「それで、ルルはどこにいるんだ?」

「落ち着け。まずはブレイク伯爵夫人をなんとかしなければ」

 ブレイク伯爵夫人はまだ管理棟に立てこもっているらしい。

「彼女の要求はブレイク伯爵。今日の五時までに伯爵が管理棟に現れなかった場合、大橋を爆破するそうだ。騎士団が何度か伯爵夫人との接触を試みているが、今のところ進展はない」

 ジキルは時刻を確認した。午後の三時過ぎ。式典からすでに四時間近くが経過している。ブレイク伯爵夫人の疲労も相当なものだろう。緊張が緩んでいる可能性も高い。騎士団も攻め込む機会を狙っている状態だとクレオンが説明する。

「ブレイク伯爵は?」

「今は厳重な警備体制で守られている。だが、突入の際にはやはりブレイク伯爵にご足労を願わなくてはならなくなりそうだ。向こうの要求を呑んだふりをして油断を誘い、気が緩んだ隙に騎士団が突入し夫人を確保、というのが目下の最善策だ」

 通常ならばあえて伯爵を危険にさらすなんてとんでもないことだが、事を起こしているのが伯爵夫人であるだけにブレイク伯爵も協力的だ。

 ジキルが介入するまでもなく事態は収まりそうな様子だった。仮に大橋が爆破されても死者が出る可能性はほぼない。パーセンにとっては痛手だろうが、ブレイク伯爵家の私財を投げ打てばなんとかなる。

「解決に向かっているというわけか」

「主犯がブレイク伯爵夫人ならば、な」

 クレオンが付け足す。やはり彼も違和感を抱いているようだ。

 むしろ奇妙なことが多過ぎる。夫人ならばブレイク伯爵を殺せる機会などいくらでもあったはず。わざわざ厳重警戒の最中に実行に移す理由がわからない。

「誰かに脅迫されているのかもしれない。明らかに伯爵夫人の様子はおかしかった。時間が経てば不利になるのは夫人の方だというのに期限を五時にしているのも解せない」

 何か裏がある。今日、この日に事件が起きたこと、五時でなければならない理由。クレオンは扉の前で足を止めた。尋常でない数の衛兵が立っていることから誰の部屋かは容易に察せられた。

「シゴルヒ警備隊長は?」

 クレオンの問いに控えていた衛兵達は顔を見合わせる。

「先ほどから姿が見えなくて」

 この非常事態にか。ジキルは眉を顰めた。クレオンは深く追求せずに取り継ぐよう指示をする。依頼するのではなく、指示だ。指揮権は既に彼の手中にあった。

 かくして厳重な警護体制の真っ只中にいるはずのブレイク伯爵との面会は、いとも簡単に果たされた。

 力なく椅子に腰かけ、うなだれるブレイク伯爵は憔悴しきっていた。称賛を浴びていたつい数時間の自信満々な態度はどこへやら、今は疲労と焦燥の色が濃い。何も知らなければ、同情さえしそうなほど惨めな姿だった。

「状況は変わりありません。こちらの呼びかけにも応じず、交渉の余地もない」

 クレオンが端的に説明するもブレイク伯爵は反応を示さなかった。床の一点を見つめたまま動かない。聞こえているのかさえ怪しい。

 クレオンが肩をすくめた。

「……アルノルト=ドホナーニ」

 唐突に告げられた名にブレイク伯爵は弾かれたように顔を上げた。

「な、何を突然」

「ミカエル=クイグリー」伯爵の動揺をよそに淡々とクレオンは名を挙げる。「ピエール=シリヤ、クラウス=サヴァリッシュ――この名に心当たりは?」

「……え?」声を漏らしたのはジキルの方だった。「クレオン、どうして」

 心当たりなら、あった。忘れられるはずもない。質問を重ねようとしたジキルを視線で制し、クレオンは伯爵に訊ねる。

「それぞれもっともらしい名目をつけて隠ぺいしているが、少なくともここ数ヶ月で有力者六人が姿を消している。パーセンで起きている連続失踪事件を、領主であるあなたが知らないはずがない――いや、事件そのものを巧妙に隠している手口からして、緘口令を敷いているのはあなただ」


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