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  (八)追及する侍従長

 言ってしまえばどうということでもなかった。

 単純明快で、この大陸ならばどこにでも転がっている話だ。

「それはつまり、ブレイク伯爵の政策が間に合わなかった、ということか」

 ジキルは首を横に振った。何故母が死ぬ前に魔女保護法が施行されなかったのか、と考えたことはあった。しかしそれでブレイク伯爵を責めるのはお門違いだということは理解していた。自分も、ルルも。

「ブレイク伯爵が母さんを殺したんだ」

 母を陥れたのは間違いなくブレイク伯爵だった。事故などではなかった。あの男は、利己的な目的を達成するためにジキル達の母が殺されるように仕向けた。

「何故だ。地位も名声もある伯爵が、一介の魔女を殺す必要がどこにある」

「もっと地位と名声を得るためさ。レナ=ヴィンセントという魔女を利用することで伯爵は今の地位を得た」

「具体的には? 伯爵は一体なに、を……」

 クレオンの声が中途半端に途切れた。

「レナ?」

 数拍置いてクレオンは復唱した。その意味を噛みしめるかのように。

「お前の母の名はレナ=ヴィンセントというのか?」

「そうだよ」

「姓はマクレティではないのか?」口にしてからクレオンは気付いたらしい「そうか。離縁したんだったな」

 一人納得するクレオン。ジキルは完全においてきぼりだった。が、訊ねるよりも先に、クレオンはベッドから立ち上がった。

「お前の妹がどこにいるのか、わかったぞ」

「本当か?」

「十中八九、間違いはない」

「でも、どうして今の話からわかったんだ?」

「説明は後だ。僕の考えが当たっているのか、早急に確認する必要がある」

 布が空を切る音がした。クレオンがドレスを翻したのだろう。

「レオノーレ」傍らに控えていた侍従長に命じる「こいつの着替えの準備を」

「あ、着替えなら服さえ渡してもらえれば俺一人でも」

「馬鹿言うな。目が見えないくせに。お前の着替えをのんびり待っている間に、ブレイク伯爵夫人が殺されたらどうするつもりだ」

 クレオンの言うことはもっともだったが、誰かに手伝ってもらうわけにはいかなかった。着替えというのは入浴の次に危ない。聡いレオノーレならば一発で見抜かれてしまう。断る口実を考え――ジキルは、はたと思い至った。

 恐る恐る自身に触れる。触れた感触は硬い生地の礼服――ではなく柔らかいガウン。無論、ジキルにはガウンに着替えた覚えなど全くない。

 ジキルは全身から血の気が引いていくのを感じた。

「クレオン様もお召し替えを」

「そうだな。その間にこいつを頼む」

「かしこまりました」

 などといった会話がジキルの頭を素通りした。

 気付いた時すでにクレオンは退室、部屋にはレオノーレとジキルの二人きりという状況だった。

 ヤバいマズイとにかくどうしよう。危機感ばかりが募って身体が動かない。

 結果、口火を切ってのはレオノーレの方だった。

「ジキル様」

 弾かれたようにジキルは背筋を伸ばした。

「な、なんでしょう?」

「このことを陛下はご存知でいらっしゃるのでしょうか」

 わずかな期待は呆気なく打ち砕かれた。シラを切る暇も与えずにレオノーレは言葉を重ねる。

「魔女の嫁入り――かの予言を、国王陛下が成就させるおつもりとは、考え難いのですが」

 ジキルは強烈なめまいに襲われた。赦されるのなら、このまま卒倒したいくらいだった


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