(四)性悪な魔剣ふたたび
空は、パーセンの発展を祝しているかのごとく晴天だった。
ジキルが袖を通した礼服はこの日のために作られたもの。婚約式の時とは違って今回は来賓の一人。体格はほぼ同じなのだから以前のようにクレオンの礼服を借りれば済むはずだ。至極もっともなジキルの案をクレオンはすげなく一蹴した。
「礼服一つ用意できないと侮られる。王家の一員ならばそれに相応しい振る舞いをしろ」
「たかが式典の礼服じゃないか。見栄を張らなくても」
「見栄こそが貴族の本分だ」
胸を張って断言されてしまえばジキルに反論の余地はない。来賓の一人として最前列に座るクレア=リム=レティスの隣で大人しくすることにした。何人目かもわからない祝辞を述べるお偉方の顔を眺めて――つまりは、暇を持て余していた。
何の気なしに巡らせていた視線が一点で止まる。微笑を絶やさないブレイク伯爵。その隣に鎮座するブレイク伯爵夫人はどことなく顔色が悪かった。寒いのかもしれない。天気はいいとはいえ、冬を間近に控えた屋外だ。
「妹は見つかったのかい?」
わかりきったことを知っていながら訊ねる底意地の悪さ。こんな性悪野郎の心当たりはたった一人しかいなかった。
「出てくるなよ」
人前に出てくるとは珍しい。この幻影が現れるのはいつもジキルが一人でいる時だ。
「何のことです?」
クレアが聞きとがめる。その様子だとノエルの姿も声も知覚していないようだ。ジキルは愛想笑いで誤魔化した。式典の最中ということが幸いして、クレアは訝しげな表情を浮かべていたが、深くは追及しなかった。見習うべき冷静さだ。
(よし)ジキルは決意を固めた(俺は何も聞こえない)
「無視とは酷いね。せっかくいいことを教えてあげようとわざわざ出てきたのに」
(邪魔しに来たの間違いだろ)
「魔導石の反応がある。ブレイク伯爵のすぐそばで」
魔法を発動させなければノエルは魔導石を感知できない。ジキルは視線をやったが魔女と思しき人物も魔法を使っている様子もなかった。
(どこだよ)
ジキルは内心で悪態をついた。ヒントを与えるならもっと親切丁寧に教えていただきたいものだ。
「邪魔ついでにもう一つ、いいことを教えてあげよう」ノエルは耳元で囁いた「もうすぐ、君たちの復讐が果たされる」
ジキルは反射的に振り向いた。が、既にその姿はない。
「……珍しいこと」
疑念を後押しするかのようにクレアが呟いた。
「何が?」
「襟巻」クレアは自身のチョーカーに触れた「ブレイク伯爵夫人は毛皮の装飾品を好まれる方です。それが今日に限って付けていらっしゃいません。あるのは首飾り一つのみ。しかし誇示するほど立派な宝石がついているわけでもありません」
改めて見るとクレアの言う通りだった。寒そうに思えたのは、ブレイク伯爵夫人の首元が覆われていないからだ。しかし所詮、個人の趣味だ。些細なことと捨て置いてしまえばそれまで。
(きっと事情があるんだろ)
来賓客が多数見守る大事な記念式典で、山のように持っているはずの毛皮の装飾品を身に纏わず、質素な宝石の首飾りだけを身に着ける事情――どんな事情だろう。
無理にでも理由を付けようとしている自分にジキルは気付いた。違和感を追いやって、いつも通りだと思い込もうとしている。




