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  (三)挑戦する王国騎士

 半ば逃げるように食堂を後にしたジキルは、町で唯一の鍛冶師の元へ足を運んだ。

 魔剣ノエルの刃は先日竜を屠ったせいで限界を迎えていた。まずは状態を見るとのことで一晩預けたのだが、はてさて今度は何日かかることやら。

 とはいえ、報奨はたんまり貰ったから、金の心配をする必要はない。ノエルが鍛え直されるまで故郷でのんびりするのもいいだろう。

 放ったままにしていた自分の部屋の掃除。雨漏りがするとロイスがぼやいていたから納屋の屋根を修繕して、少しの弟孝行。田畑を荒らす獣を退治して、あわよくば猪を獲って鍋でも作ってもらうのだ。ためていた文献も読んでおきたいし『暁の魔女』に関する情報も整理したい。

 今後に胸を弾ませながら鍛冶屋の扉を開いたジキルは、足を止めた。

 いつもは閑古鳥が鳴いている鍛冶屋に来客があったからだ。それも、この辺りでは見かけない人種――明らかに上流階級の。

 小柄な少年だった。歳はおそらくジキルと同じくらいだろう。濃紺を基調とした貴族服の上にマントをはおっている。細い腰から覗くのは剣の鞘だ。ともすれば、おとぎ話に出てくる王子様を彷彿とさせる嫌味な格好も、この少年だと非常に様になっていた。

 少女と見間違う程に端整な顔立ちで、鋭い眼光が本来の性別を誇示している。艶やかな黒髪に生える白皙の肌、薄い唇を引き結んでこちらを見つめる様は美しさもさることながら、近寄り難い冷たさを感じさせた。

(……ん?)

 ジキルは内心首を捻った。何かが――少年の雰囲気や姿だとかが、ジキルの記憶に引っかかった。こんな美少年、一度見たら忘れないものだが。どこかで、会ったような気がした。が、微かな違和感とも既視感ともつかない曖昧なものは形にもならずに消えた。

「お、ちょうどいいところに来た」店の奥から主人が顔を出す「お前さんに用があるんだとさ」

 お役御免とばかりに引っ込もうとする主人の背に、ジキルは声を掛けた。

「なあ、俺のノエルは?」

「ちょっと曲がっているから、三日はかかるな。前から言っているが魔剣だからって見境なく振り回していたら刀身なんぞすぐ折れちまうぞ。もっと使い方を考えろ」

 言いたいだけ説教をして今度こそ主人は奥にすっ込んだ。

 残されたのは初対面の二人。ジキルは戸惑いながらも少年に向き直った。

「俺に用があるのか?」

 そういえば別荘に到着早々、町に出ようとしたジキルを呼び止めた侍女がいた。その人に行き先を訊ねられ、ジキルはこの店の名を挙げた覚えがあった。

 昼食は外で食べるので用意する必要はないことも伝えたはず。何か用があって呼びに来たのか。屋敷の使いにしては偉そうな気がするが。

 あれこれ考えているジキルの胸に何かが当たった。とはいえ柔らかいものなので大して痛くもない。ジキルは視線を落とした。

 足元にくたりと落ちていたのは、白い手袋だった。これもまた既視感。あの時はできたての遺書だった。クレア王女といい目の前の少年といい、なんでいちいち他人に投げつけるのだろう。内心首を捻りながらも手袋を拾い上げて、ジキルは気付いた。

 紋章入りの手袋は左手用のものだった。

(左……)

 今では廃れて貴族でもほとんど使わない慣習だが、知識としてはあった。リーファン王国で決闘を申し込む際には左の手袋を相手に投げつける。申し込まれた相手が手袋を踏みつければ拒否。拾い上げたら――

「決闘成立だな」

 顔を上げたジキルの眼前には切っ先。反りの入った片刃の剣を突き付け、少年は告げた。

「僕の名はクレオン=ベリィレイトだ。クレア王女を賭けてお前に決闘を申し込んだ」

 何故過去形? いや、この場合は完了形と表現するべきか。それもそのはず、決闘の申し込みは「了承」ということで既に成立していた。そういうことに今、なった。

「いきなり決闘を申し込まれても」

 ジキルの剣は使いものにならない上に預けたままだ。両手を開いて見せたジキルに、クレオンは抜き身の剣を差し出した。

「使え」

「あ……はい」

 押し付けられた剣の柄を握る。扱いやすいわけでも、扱いにくいわけでもない。重過ぎず、軽過ぎず。これといった特徴のない両刃の剣だった。華美な装飾はなく、柄に刻まれた王国の紋章だけが個性を主張している。リーファン王国で一般的な兵士に支給される剣だ。

 なるほど、これならば誰でもそれなりに戦える。戦うことができてしまう。

「ちょっと待て。なんで初対面の人と決闘なんかしなきゃならないんだ」

「頭の悪い奴だな。何度も説明させるな。クレア王女と婚姻を結びたければ僕を倒せと言っているんだ」

「だからなんでお前と」

「お前じゃない。クレオンだ」少年は眉根を寄せた「クレア王女付きの近衛兵を務めている」

 つまりクレア王女の騎士。ジキルはクレオンの顔をまじまじと見た。女と見間違う程の端整で身体の細い少年が。いくら王女と同年代とはいえ、人選に無理があるように思えた。

「納得したのなら案内しろ。決闘場はどこだ」

「あるわけないだろ、王都じゃあるまいし」

 なにぶん小さな町だ。百年に一度あるかどうかも怪しい決闘をするための場所を作るくらいなら、宿でも建てた方が有意義だろう。

「広間は?」

「見世物になるつもりはない」

 当初の希望である決闘場には、見物するための観客席があるはずだが。貴族の判断基準がジキルには理解できなかった。

「人目を避けて、それなりの広さがあって、邪魔にもならない場所、か……」

 思い当たる場所は、一つだけあった。


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