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  (十二)婿入りする魔女

  さて、不穏分子を一斉に取り除いたことで、王城は平和になった。少なくとも表向きは。もはや用なしとなったジキルに気に留める者は誰もない。レムラに戻ろうが妹を探す旅に出ようがジキルの自由——にならなかった。

「どういうことなんだ」

 朝食の席。向かいに座るクレアにジキルは訊ねた。

「反逆者は捕らえたんだから、俺はもう用済みだろ? 取り調べも終わった。まだ城にいないといけないのか?」

「朝の挨拶もなく婚約者におっしゃることがそれですか」クレアはすました顔でたしなめた「まずは礼儀作法を身に着ける必要がありますわね。仮にもわたくしの婚約者なのですから」

 そう、婚約者のままだ。カスターニ伯爵を首謀とする反乱事件により婚約式は中止となった。そのまま婚約の話をうやむやにし、お互い晴れて自由の身となるはずなのに。

「婚約は解消したんだよな」

「おかしなことを。わたくしがいつ婚約を解消しました?」

「いや、だって……そもそも婚約だって成立していなかっただろ」

 婚約式の真っ最中に乱入されたのだから。ジキルが主張するとクレアは首を傾げた。

「誓約書に署名しました。その時点で婚約は成立しております」

 ジキルは開いた口がふさがらなかった。たしかにサインはした。あくまでも形式上だが。しかしあれはあくまでも反乱を起こさせるための芝居のようなものだったはず。

「国王陛下の前で嘘偽りはあってはなりません。たとえ目的を達するためとはいえ、交わした誓約は有効です」

「お前、俺のことが嫌いなんだよな?」

「ええ」

「得にならない結婚はしないんだよな?」

「貴族として生まれた以上、当然のことでしょう」

「だったら、」

「しかし、カスターニ伯爵との縁談が露と消えた今、わたくしにこれといった殿方はおりません。邪竜や年の離れた殿方との縁談を持ち込まれるくらいなら『竜殺しのジキル』殿とのご結婚の方が外聞はよろしいかと」

 比較対象が酷過ぎて哀しい限りだが、カスターニ伯爵よりはマシだと思ってくれているらしい。

「で、でも」

「わたくしに異論はありませんわ。国王陛下にわざわざ異議申し立てするほどの理由もございませんし」

 つまり、クレアは婚約解消に協力してくれないということ。まさかの裏切りだ。呆然とするジキルの前でクレアもといクレオンはチョーカーを外した。

「ようこそレティス王家へ、ジキル=マクレティ殿」

 嫌味と嘲笑の入り混じった笑みは、悪戯を成功させた少年のようでもあった。

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