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  (四)勤しむ罠猟師

 クレア王女のたっての希望で、行き同様専用馬車がジキルには用意されていた。

 結婚前の男女が馬車とはいえ密室で二人きりというのはさすがに非常識だが、それにしてもわざわざ別の馬車を用意するとは周到だった。ここまで徹底的に嫌われるといっそ爽快だ。開き直ってジキルは快適な一人旅を堪能することにした。

 王国騎士の馬車は乗合馬車とは比べものにならないくらい上質だった。まず座り心地が違う。薄い板の上に申し訳程度の布が張ってあるのではなく、衝撃を和らげるクッション材が埋め込まれ、その上に柔らかい皮を張っている。これならば舌を噛む心配はない。

 同乗者も監視者もいない。休憩所まで自由だった。

 暇を持て余したジキルは、狭い車内に工具を広げて狩猟用罠の改良作業を始めた。材質一つ、長さを少し変えただけでも罠の性能は劇的に変わる。

 こつは匂いを消すこと。金属は意外に鼻につくので極力避けて、かつ獲物が暴れても千切れない程度の強度を保つようにする。カシなどの匂いのきつい樹皮と一緒に煮込んだり、罠を仕掛ける山の土を取ってきてひと月ほど埋めたりして、なんとか金属臭を誤魔化したりする。

 剣を振り回しているよりも、こうして試行錯誤を繰り返す方が性に合っていた。

 異変を察知したのは、峠に差し掛かった時だった。ジキルは括り罠をいじくっていた手を止めた。車輪の音に紛れて獣の遠吠えが聞こえたような気がした。空耳か、それとも風のいたずらか。

 腰の魔剣ノエルを見ると魔導石に淡い光が灯っていた。嫌な予感がした、ものすごく。

 ほどなくして、馬車が急激に速度を上げた。危うく車内を転がりそうになったジキルは、慌てて座席の手すり部分にしがみついた。短い悲鳴。馬のいななき声。そして馬蹄が激しく地を叩く音。ジキルは手早く作りかけの罠をしまうと、鞘に入れたままのノエルだけを手に小窓から顔を出した。

「何かあったのか?」

「け、けもの……狼です! 危険ですから外には出ないでください」

 御者が振り向き答える。周囲を見渡せば護衛兵達が後方を警戒しつつ馬を走らせていた。

「狼?」

 夜ならばともかく、こんな真昼間に。

 ジキルは御者の警告を無視して窓から身を乗り出した。気配を隠す気が最初からないのか全力で追ってくる獣。梢と葉の間から僅かにその姿を覗かせる。

 御者曰く『狼』を一目見てジキルの疑問は解消された。なるほど確かに狼に似ていた。針のように鋭い銀色の毛並み。その骨格は通常の狼よりふたまわり大きい。血走った赤眼。元は狼だった魔物、それも覚醒したばかりの魔獣だ。

 既に体内にあった魔導石が、何らかの拍子で魔界の扉を開いて一気に魔力を放出。そうするとつい先ほどまでただの獣だったものは異形の魔獣となり、狂暴化するのだ。

 覚醒に時間も状況も関係ない。魔力によって狂わされている魔獣が衝動的に襲いかかっていると考えれば、納得はできた。

「でも、なんでこんなにたくさん……」

 我を忘れて追ってくる魔獣の数は軽く十は超えている。もしかすると二十以上かもしれない。それだけの数の獣が一斉に覚醒し凶暴化するとは、信じ難い光景だった。

 唐突に馬車が跳ね上がる。車輪が岩に乗り上げたのだ。街中とは違って舗装もされていない道では当然のことだ。

「原因究明はあとだな」

 ジキルはノエルの柄に手を掛けた。


もしかすると今日はもう一度更新……かもしれませぬ。

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