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  (四)不穏な親友

 ほどなくして、ギデオンが騎士団を連れてやってきた。一同は惨状を目の当たりにして言葉を失う。

 硬直すること数拍。ようやく口を開いたかと思えばギデオンはジキル達と庭を交互に指差した。

「な、なななななな」

「あーら早いお着きで」

 ルルの皮肉も耳に届いていないご様子。造形物もろとも裏庭が荒野になったのだから無理もないことではある。

「何故、慰霊塔が跡形もないのだ」

「クリスのせいよ」

「この地面にあいた大穴はなんだ」

「クリスがやったの」

「庭園はどこに消えた」

「クリスに訊いて」

 死人に口なし。ルルは情け容赦なく、消えた魔族に全ての責任を押し付けた。あまりにも酷い被害状況に、ギデオンの頬が痙攣した。

「……で、その諸悪の根源はどこにいる」

「あそこ」

 ルルが指差した先はクレーターの中心部。無論、そこには見るからに凶悪そうで、誰もが納得できるような悪役の姿などあるはずもない。

 ギデオンは「ぐわー!」と奇声をあげて頭をかきむしった。

「どうしてくれるのだ! これでは裁判も賠償金請求も処刑もできないではないか!」

「魔族が金払うわけないでしょう。何を期待しているのよ」

 喚くギデオンを煩わしそうに払いのけ、ルルはジキルに向き直った。

「で、婿入り希望の王子様は?」

「キリアンは?」

 ジキルが振り返ると、戦線離脱していたベラがいつの間にか戻ってきていた。何事もなかったかのように全身鎧を装備している。予備を用意していたらしい。

「オルブライトの棲処に行ったよ。あそこなら『魔界の扉』も成長できないだろうし」

 なにせ絶海の孤島だ。吸収する魔導石なんぞどこにもない。

「二人で、ねえ……」

 ルルが意味を含ませた視線を空に投げたその折、鳥の嘶きが聞こえた。小さな黒い影が見る見る内に大きくーー近づいてくる。噂をすれば、鷹のアララトだ。長距離を物ともせず羽ばたく魔鳥は急降下後、滑空した。

「キリアンからか、なわっ」

 アララトは至極当然のごとくジキルの肩に降り立った。見かけによらず軽いので倒れずにはすんだが、ジキルは奇声をあげて数歩よろめいた。

「なに恋文?」

「こんな状況で誰に送るんだよ」

 顔を見合わせるルルとロイスをよそに、ジキルはアララトの足に括り付けてある手紙を抜き取った。

「結婚してくれって?」

「俺宛だからそれはない」

 ジキルは封を切り、手紙を広げた。そもそも小さな羊皮紙なので長々しい文は書けない。内容は端的だった。

『明日戻る』

 裏返しても折ってもそれだけだった。状況が全くわからない。ジキルは眉を寄せた。

「なんですぐ戻らないんだ?」

「あー……そういうこと」

 ルルはしたり顔で頷いた。ロイスも訳知り顔で「不憫な人ですね」と呟き、ベラも納得しているようだった。理解していないのはジキルだけだった。

「どういうことだ」

「二人っきりで話したいことがあるんでしょ。放っておきなさいな」

 ルルが手紙を取り上げた。

「あの二人、いつの間にそんな仲良くなったのか」

「仲良くないわ。少なくともキリアンにとってあの婿入り志望は、リンゴの次くらいの好感度」

 自分と同様に、キリアンはリンゴが好きだ。酒場では必ずと言っていいほどリンゴ酒を飲んでいる。

「すごく好きだってこと?」

「すごーく大嫌いってことよ」ルルは深々とため息をついた「兄さんは全然気づいてなかったでしょうけど」

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