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  (十六)絶縁する親子

「理解した?」

(お前が父親じゃないということは、わかった)

「失礼な。私は間違いなく君達の父親だよ」

 血の繋がりではそうかもしれない。しかし父親として育ててもらったこともなければ、支えてもらった覚えもない。ジキルにとってノエルは今でも油断ならない魔族だ。間違っても家族ではない。

(母さんは一人で俺達を育てた。その母さんが『魔女狩り』で殺された時だって、お前は何もしてくれなかったじゃないか)

 終わったことだ。ノエルを責めても無意味。理解はしていても納得はできなかった。母であるレナに不足があったとは思わない。だが、父親がいればと思う時は何度もあった。命からがらノイラを飛び出したばかりの頃は特に。ジキルが一番苦しくて助けてほしかった時に、この自称父親は何もしてくれなかった。共に旅をしていた時も、名乗ろうとさえしなかった。

(父親であったことが一度でもあったか)

 ノエルはへらりと、しまりのない笑みを浮かべた。

「ないね。残念ながら」

 ジキルは腰に差した剣を叩き割りたい衝動を堪えた。人間と魔族では考え方が違う。ノエルの態度は、魔族としては当然のことなのだろう。そもそも魔族に家族や父親という概念があるかも怪しい。

 それで怒りはなんとかおさめたが、歩み寄る気もなくなった。ノエルとて鶏やヒヨコと相互理解したいとは思わないだろう。

「ああ、でも」めんどくさそうにノエルは付け足した「アップルパイを食べるのは好きだった」

(アップルパイ?)

「食べたことあるだろ? レナ特製アップルパイ」

 もちろんある。さくさくの生地に甘く煮詰めたリンゴのーーシナモンのきいたアップルパイ。レナの得意料理の一つで、ロイスが作り方を熱心に教わっていた。

「そういえばレナがレシピを残していたな。ロイスに頼んで作ってもらおうか」

 図々しい発想に呆れを通し越して感心した。ジキルはロイスに絶対にアップルパイなんぞ作るなと伝えることを決めた。

「君って結構心狭いね」

(誰のせいだと思っているんだ)

 あいにくだが父親でも家族でもない魔族に食べさせるアップルパイなどない。

「ジキル」

「なんだよ」

 苛立ちに任せて振り向いたら、キリアンが狐のつままれたような顔をしていた。

「あ、ごめん」

「何かあったのかい?」

「単なる親子喧嘩だ。他人が口を挟んだところで解決しない」

 すげなく言い捨てたのは『魔界の扉』の様子を見ていたクレオンだった。

「親子じゃない」

 ジキルはむくれて否定した。ノエルは他人事のように肩を竦めた。

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