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  (十)置いていかれる王子様

 城内に戻る際、馬を使うつもりはなかった。ジキルが馬術を体得していないのが理由の一つ。何よりも、馬では時間がかかり過ぎる。

 オルブライトの肩から首の部分に三人でまたがり、命綱を結わえる。これで、少なくとも振り落とされることはないだろう。

「できそうか?」

「……たぶん」

 ジキルは深く、ゆっくりと呼吸した。意識を集中させ、魔導石を介して魔力を自身に取り入れる。動かす物体の大きさは、消費する魔力に影響しないとノエルは言っていた。必要なのはイメージ。四肢に力を入れて地を蹴り、翼を広げてはためかせ、空へーー

「僕がやる」

 いざ飛びたとうとしたところで、後ろに座るクレオンがジキルの肩に手を置いた。

「へ?」

「無駄に力を入れている。構成もずさんだ。これでは城にたどり着く前に墜落しかねない」

「いや、でもクレオンは魔法を使えないだろ」

 クレオンの魔剣に填められた魔導石の属性は氷。一部屋を瞬時に凍らせるほどの強力な魔導石ではあるが、それ以外の魔法は使えないはずだ。

「僕一人だけなら、な」

 クレオンは腰に下げた魔剣を鞘ごと外した。

「僕の母ーー『原初の魔女』の魔導石ならば可能だ」

 目を見開くジキルとキリアンをよそに、クレオンは魔導石を介して魔法を構成、発動させた。オルブライトがゆっくりと身を起こす。

「こと魔法に関しては、殿下の方に分があるね」

「なんで⁉︎」

 これでもジキルは『原初の魔女』だ。ベラの元で修行もした。が、傍らでそれをずっと見守っていたはずのキリアンがすげなく言う。

「君は自分の解毒に手一杯で、他の魔法はからっきしだったじゃないか」

「で、でも物体操作くらいなら」

「あらぬ方向に物を飛ばしては一緒に拾いに行ったね。ルルが見かねて手伝っていたと思うけど?」

 ぐうの音も出ない。黙り込んだジキルを、クレオンが鼻で笑った。

「決まりだな」

 オルブライトが鎌首をもたげる。脚を踏ん張り、翼を大きく広げた。

「そなた達、何をしている⁉︎」

 いつの間に勝利宣言と演説を終えたのか。ギデオンが目を丸くしてこちらを見上げていた。

「ごめん。城に戻らなきゃ」

「まさか……魔族と戦うつもりなのか」

 何を今更。青褪めるギデオンを、ジキルは半目で見た。クリスを倒して『魔界の扉』を破壊するまでは解決じゃない。

「殿下はそこで待っててくれ」

「待て! まずは兵士達を召集し隊列を整えてだな。あと私の馬も用意して……だいたい邪竜に乗って帰る必要がどこに」

「急ぐんだよ!」

 クレオンが「放っておけ」と小声で言った。

「ジキル、剣を抜いて宣言しろ」

「せんげん? 何を?」

「何でもいい。お前の合図で飛ぶ」

「最終決戦だよ。それなりに格好つけないと」

 キリアンにまで促されて、ジキルは剣を抜いた。空に向かって高く掲げるーー切っ先が示すは王城。周囲の視線を一手に集める中、ジキルは声を張り上げた。

「行くぞ!」

 端的で捻りもない合図で、オルブライトは地を力強く蹴った。翼をはためかせて飛翔。神話に登場するような勇姿に後押しされて、兵士達が一斉に各々の武器を空に向けた。青空に響き渡る鬨の声。先ほどの、ギデオンの演説時とは比べようもないほどの大声援だった。

「勇者に相応しい出陣だ」

 キリアンが笑う。クレオンもまんざらでもなさそうだった。ジキルは剣を鞘に納めて、首をひねって振り返った。

「お前、ギデオンに張り合っただろ」

 オルブライトを倒したのはさも自分であるかのように振る舞う従兄弟が、気に食わなかった。同じ王子ならばなおさらだ。

「何のことだ」

「とぼけるなよ。対抗するなら自分でやればいいのに」

 これではジキル=マクレティが英雄になってしまう。最終決戦に置いていかれたギデオンの面目は丸潰れ。それがクレオンの狙いだとジキルは見抜いていた。

「一番危険な役を担うんだ。これくらいの役得はあって然るべきだろう」

「魔獣狩り、竜殺し、救国の英雄、二つ名には事欠かないね」

 キリアンが指折り挙げた。他人事だと思っているのか楽しそうだ。ジキルは指で頬をかいた。

「有名になってもなあ……」

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