(十三)マクレティ家の婿
ギデオン王太子の部屋は以前訪れた時となんら変わらないように見えた。
豪華絢爛を絵に描いたような内装。ルルに言わせれば大仰で落ち着かない部屋だ。
主人が不在中でも変わらず掃除や手入れをしていたのだろう。花瓶に活けられている花は萎れることもなく咲き誇っている。
「では、改めて作戦会議をしよう」
シーツが皺一つなく綺麗に張られたベッドに、ノエルはどっかりと腰を下ろした。
「あの原始の魔女とトカゲをどうにかしないと、クリスと最終決戦どころか『魔界の扉』にすらたどり着けない。この状況を打破するための建設的な意見を求める」
「あ、ん、た、ねえ……っ!」ルルは拳を震わせた「大見栄切った挙句尻尾巻いて逃げ出して、魔族としての誇りはないの⁉︎」
「いや全く」
「恥を知りなさい、恥を!」
「そもそもあの飛びトカゲが飛来する前に、婿殿があの魔女を斬り殺しておけばこんな面倒なことにはならなかったんだがな」
一同の視線を集めたクレオンは怪訝な顔をした。
「……まさかとは思うが、その『婿殿』というのは僕のことではないだろうな」
「違うのか?」ノエルは首をかしげた「ジキルはそのつもりみたいだったけど」
「馬鹿も休み休み言え。僕が婿入りできるわけがないだろう」
「全くだ。一国の王子に対して下賎な平民ごときが」
「「「お前は黙っていろ」」」
ノエルとクレオン、そしてルルの声が合わさる。沈黙せざるを得ないギデオン王太子。もはやお決まりのパターンだ。レオノーレが憐憫の眼差しを向ける。
「悪かった。私の勘違いだったようだ」
改めてノエルは詫びた。しっかりと腰を折っての礼儀正しい謝罪だった。芝居じみているとも言う。
「あくまでもジキルが一方的に想いを寄せていただけで、君は欠片も好意を持っていない。むしろ魔女であることを隠し平然と君の婚約者の座についた性根の腐った下衆だと忌み嫌っている。つまりはそういうことだったんだな」
「ちょっと待て。なんでそうなるんだ! 誰もそこまでは言ってはいない」
「なに遠慮は無用だ。ジキルには私が保護者としてしっかり指導しよう」
「ついでに家族に相談もせず勝手に嫁を貰わないように言っておいて頂戴。王族なんて論外だわ」
ルルが口を挟む。ノエルは頷いた。
「承知した。『魔界の扉』の件が片付いたら、二度と王侯貴族様方の前にこの醜い姿を現さないよう言い含めておく」
絶縁予告をされたクレオンは目に見えて狼狽えた。
「ち、ちがっ、僕は別に、ジキルが嫌いなわけじゃあ……」
「でも好きでもないんだろう? 無理はしなくていい。ジキルにはキリアンという素晴らしい貰い手がいる。残念なことに彼はリンゴが嫌いなようだが」
「兄さんはそのこと知らないけどね」
「しかし好き嫌いは誰にでもある。私だってシナモンとトマトとセロリとバジルとミントとパセリは嫌いだ。キリアンが私とジキルの好物であるアップルパイが嫌いだろうと、ジキルの婿になる上で支障はない」
何やら納得したようにしきりに頷き合うマクレティ姉妹もとい親子。当人を差し置いて話を進める勝手さに怒ればいいのか、ノエルの好き嫌いの多さを鼻で笑えばいいのかわからなくなった。混乱の果てにクレオンは、一番重要な点を主張して抗議した。
「ジキルの婚約者は僕だ!」




