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  (十)再会する宿敵

 予定よりも時間がかかったが、眠れる王子様は目覚めた。ジキルも無事なようだ。

「上手くいったようね」

 ルルの呟きを聞き留めたクレオンが視線を向ける。責めているような、哀れんでいるような、なんとも言えない眼差しだった。

「何よ?」

「……いい。後で話す」

 改めてリリアと対峙するクレオン。その後ろに神妙な顔で控えるレオノーレとジキル。侍従長はともかく、今回の突撃作戦を計画し主体的に動いていたジキルは、もっと率先して戦っっていただきたいところではある。

(やっぱりおかしい)

 何がとは言えないが、ジキルらしくない。

 レムラを出てからーーいや、ジキルが目を覚ました時から感じていた違和感。気のせいかと思っていた疑念は、ますます膨らむばかりだった。

「降伏しろ、リリア」

「クレオン様まで何をおっしゃっているの?」

 リリアは不思議そうに首を傾げた。数だけで言えば四対一。爆発するぬいぐるみは確かに脅威ではあるが、ここまで至近距離ではリリアもろとも喰らってしまう。情に訴えかけることができる兄のサディアスは未だに意識が戻らない。完全に詰み、だ。

 しかしリリアは状況が示す結論にまるで頓着しない。むしろ心底愉しげに笑った。

「数を揃えて剣を突き付ければ勝てる。リリアをその程度の魔女だと、本気で思っているの?」

「少なくとも、クリスの助けは来ないようね」

 ルルが指摘する。圧倒的な魔法の才を持つが故に、リリアには共に戦う仲間がいない。

「あんたはまあ強い魔女かもしれないけど、多勢に無勢よ。守ってくれるお父様も、かばってくれるお兄様も、救い出してくれる王子様もいないの」

「リリアにはそんなものはいらないもの」

 アリーと名乗り、人々から恐れられた魔女は愉悦を露わに笑んだ。

「ルルは知らないの? お父様というのは子どもが困っている時に助けてくださるものよ。リリアが怖い思いをしていたら抱きしめてくださるのよ。魔法も使えないくせに威張ってリリアに命令するだけの男なんて、リリアのお父様じゃないわ」

 ルルは顔をしかめた。夢見がちなお嬢様の戯言にしては悪意が込められている。

「あんた、一体何を」

「へえ……そうきたか」

 今まで傍観を決め込んでいたジキルが失笑した。その視線はリリアにではなく、明後日の方に向けられていた。正確には、城下町の上空。

「何がよ」

 ジキルが眺めているのと同じ方向を見て、ルルの思考は停止した。

 ありえない、というのが最初に浮かんだ言葉。

 話には聞いたことがある。それこそ生まれた時から。寝る前に聞いたおとぎ話には何度も登場している。この国にいる以上、必ず知っておかなければならないことでもある。

 実際に目にしたことだってある。一年ほど前、魔導石を求めて様子を伺ってことがある。その際はとてもではないが倒すのは難しいと判断して退いた。

 だから存在自体は不思議ではない。ただ、この場にいることがありえなかった。どう考えても。

「なんで?」

 ルルは呆然としながら呟いた。おかしい。ありえない。何故飛んでいる。動き回っている。そしてこちらに向かっているのだろう。

 あれは以前、ジキルが倒したはずなのに。

「リリアの『お父様』を改めてご紹介しますわ」

 目を剥く一同の前で、大きく旋回。たったそれだけで生み出された豪風が襲いかかり、全身を叩く。思わず漏れた悲鳴すらも衝撃音にかき消されて聞こえない。

 大きく広げた蝙蝠のような翼をはためかせて、そいつは離塔の上に降り立った。

「リーファン王国を司る竜ソリ=オルブライト。リリアをいじめる悪い人は、みーんな踏み潰しちゃうのよ」

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