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  (三)水入らずの親子

「この外道!」

 掴みかかったジキルを『ジキル』はひらりとかわした。無様にすっ転んだジキルは、すぐさま起き上がって睨みつけた。視線だけで相手を殺せればいいのにと本気で思った。

「感謝してほしいね、おかげで君は可愛い弟と妹を得たんだから」

「ふ、ふざけんなっ!」

「前から思ってたけど、怒った顔は母親そっくりだ」

 ジキルは目の前が真っ赤になった。唸り声をあげて再び『ジキル』に襲い掛かった。が、今度は『ジキル』に突き出した腕を掴まれて呆気なく投げ飛ばされる。夢補正か痛み衝撃もない。

「話が進まないから反抗期もそのくらいにしたまえ」

 起き上がる前に『ジキル』に胸ぐらを掴まれて押さえ込まれる。

「お前と話すことなんて」

「ここからが本題だ」

 静かだが威圧感のある声音。自分と同じであるはずなのにまるで違う。ジキルは抵抗することを忘れた。

「誤解しているようだが、魔族ならば誰も彼も人間界に興味があるわけじゃない。たまたまクリスと魔神が千年前のリベンジをしたがっているだけで、私自身は正直人間界なんぞどうでもいい」

「嘘つけ! だったらどうして母さんを」

「若気の至りと思ってくれ」

「な……っ!」

 激昂したジキルの唇に『ジキル』は人差し指を当てた。

「悪いが子どもの癇癪に付き合う時間はないんだ。結論から言えば、このままだと私にとって少々困ることになるから、君達がクリスを倒そうというのなら協力しよう」

 予想だにしていなかった提案にジキルは目を瞬いた。

「仲間割れか」

「そもそも同族なだけで仲間ではない。人間と同じだよ。私に言わせれば貴族も領主も平民も大して変わらない。なのに君達はいがみ合っている」

 一緒にするなと反論したいところだが、的を射ている。

「……少々困ることって」

「ひとつは『魔界の扉』だ。開くのは一向に構わないが、アレは要するにこの世界にある魔導石を吸収して大きくなるわけだ。つまり、放っておくと魔剣に埋め込まれている私の魔導石まで吸収してしまうんだよ」

「それが困ること?」

『ジキル』は至極真面目な顔で頷いた。

「魔剣に埋め込まれている魔導石は私の『核』だ。人間で言う心臓を、ぽっと出のよくわからない魔族の思いつきで不当に奪われようとしているんだ。これは断固戦わなくてはならない」

 玉座の間に魔剣を置いていけばよかったな、とジキルは思った。そしたら今頃『魔界の扉』に吸収されていただろうに。

「仮にも父親である私を殺す気なのかい?」ジキルの思考を見透かしてぼやく「まったく薄情な娘だな。親の顔が見たいよ」

 ジキルは無言で自分の顔を指差した。『ジキル』と全く同じ顔を。

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