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  (三)息の根を止める魔族

「嘘よ」

 間髪入れずにルルは否定した。

 魔族と人族の間に生まれた魔女。おぞましい事実は否定しようがない。母のレナは魔法一つ使えなかった。普通の魔女ならばあってしかるべき他の魔女の同胞もいなかった。

 そして娘たるルルには膨大な魔力を操る力があるーー正確には、魔導石から供給できる魔力の出力量が桁違いな上に、それに耐えうるだけの特異体質だった。あらゆる事実が自分達が異端であることを示している。故に葛藤を伴いながらも受け入れることはできていた。

 だが、もしクリスの言う通りだとしたら。

「私は操られてなんかいない! わた、しは……っ!」

「もちろん、そうだとも。君は操られていない」

 クリスの声音は優しかった。慈愛さえ感じさせる。にもかかわらずルルは身体の芯が冷え切ったのような感覚に襲われた。声が、息が、出ない。

 自分は操られていない。それは確信をもって言える。兄妹で過ごした思い出も、母を失った痛みも悲しみも、全部覚えている。これが作りものであるはずがない。

(でも、だとしたら)

 頭がそれ以上考えることを拒んだ。ルルは無意識の内にかぶりを振った。嘘だ。違う。そんなはずはない。違う。否定の言葉で思考を塗り重ねても、クリスの告げた事実は容赦なく侵食する。それはまるで、心身を侵す毒のように。

 違う。

 自分は彼女を大切に思っているし、彼女だってそうだ。どこの世界にいなくなった妹を探すために大陸中を探し回る姉がいるだろう。ノイラから追われた時だって、母の形見を売り飛ばしてでもロイスや自分にパンを食べさせようとした。物乞いもした。蔑まれながらも必死で自分達を守ろうとしていた。いつだって彼女は甘かった。妹のワガママも、怒りながらも最終的には許してくれていた。全部、全部、覚えている。

 他人から見たら些細でありふれたものでも、ルルにとっては誇るべき宝であり、絆だった。

 だが、絶対だと確信していた絆でさえも、クリスの告げた事実の前には力なく萎縮してしまう。

 毒が全身に行き渡るまで十分な猶予を与えてからーーもはや悲鳴をあげることすらできないルルに、クリスは嬉々として訊ねた。その目は獲物をいたぶって楽しむ捕食者のそれだ。

「違うと言うのなら教えておくれ。君とロイスはどうして自分達の姉のことを『兄』と呼ぶんだい?」

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