表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/266

  (十)これでも元婚約者

 誠意溢れる説得でギデオンを静かにさせてから、ジキルは一つ息をついた。頭に鈍痛、指先に痺れ、全身には倦怠感。よくない兆候だ。はてさて、あとどれくらい魔石はもつのだろう。

(ルル達が間に合うといいけど)

 すぐに追いかけた方が得策なのはわかっている。一刻も早く魔導石を取り返さなくてはならないことも。それでもジキルはクレオンをひたと見据えた。

「まだ僕に何か?」

 クレオンは蔑むように目を細めた。出会ったばかりの頃を彷彿とさせる態度に、ジキルの口元から笑みが零れる。鍛冶屋で決闘を申し込まれた。晩餐会の食事に毒を盛られた。魔獣に襲われた時、正体を明かしてまで助けてくれた。パーセンまで一緒に行ってくれた。

 仮に、この半年でクレオンが何一つ変わっていなかったとしても、自分は違う。

(俺は変わった)

 クレオンに出会って、一緒に過ごして、多くを学んだ。策謀を巡らせる連中は好きになれない。しかし清濁併せ呑むことも必要なのだと知った。

 ジキルは、無理やり引きずってでもルルを連れ戻せばいいと考えていた。ルル本人の意思は関係ない。復讐に燃える心をおさえ込んで、何も知らなかった頃に戻ればいいと。

 でも、それは誤りだった。

 ルルにはルルの意思と下した決断がある。たとえそれが間違ったものだとしても、頭ごなしに否定することはできない。目をつぶって耳を塞いでも変わらない。向き合わなければ、いつまでも解決はしない。

 それを教えてくれたのはクレオンだった。

「話がある」

「僕はお前と話すことなどない」

「でも俺にはあるんだよ」

 このやりとりにも既視感。ジキルはナイフをしまった。

「俺は、お前が王座を得るためだけに『暁の魔女』と手を組んだとはどうしても考えられない。何か他の、お前にとって大切な理由があるんじゃないのか」

「大切なもの?」クレオンはせせら笑った「僕には失うものなどない。最初から何一つ持ってはいないのだからな」

 鋭い視線の先には、柱に括りつけられたギデオン王子。

「リーファン王国とレティス王家存続のため。大義名分の元、こいつらは僕から何もかも奪ったんだ」

 クレオンの眼差しに耐えきれなくなったのか、ギデオンが顔を伏せた。バツの悪いーー思い当たる節がある表情だった。

「……どういう、ことだ」

 ジキルは目を白黒させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=921040853&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ