(九)再会する姉妹
「レオノーレか」
さすが長い付き合いなだけあって、クレオンはすぐさま誰の差し金であるかを当てた。ジキルは胸を張った。
「その通りだ。よくわかったな」
「誇らしげに認めるな。非常事態とはいえお前に王子への謁見が許されるはずがない」
無様に転がっていたジキルを拾ったのも、傷の治癒を手伝ってくれたのも、知恵を貸して協力してくれたのも全てレオノーレだ。クレオンは彼女に対してさえも事情を明かしていなかった。が、そこは長年仕えている侍従長、クレオンの考えていることなどお見通しだ。
ルルが不安げに訊ねる。
「兄さん、魔導石は」
「まんまと奪われたけど、大丈夫だよ」
「大丈夫って……」
ジキルは脇腹に手を添えた。既に傷は塞がっている。奪われた魔導石の代わりに魔石を埋め込んだから、しばらくはもつはずだ。全身を侵し始めている倦怠感だけはどうにもならないが、気力でねじ伏せる。
「貴様ら、こんなことをしてタダで済むと思っているのか」
縄で縛られたギデオンが憎々しげに吐き捨てる。
「わかっているのか。これは反逆罪だぞ! 一族もろとも処刑して、ひぃっ!」
ギデオンの声が裏返る。ジキルが獲物を捌く時に使うナイフを頰にぺたりと当てたからだ。
「火刑も磔刑も今さらだよ。魔女がそんなものを恐れるとでも思うのか」
脅しは意味を成さない。暗に黙っていろと警告されたギデオンは歯を鳴らした。それでも無駄な抵抗をしないだけの分別はあるようだ。暴れ出さないだけ獣よりは利口と見受けられる。
「ところでアリーは?」
「こいつが逃したのよ。きっと今頃、クリスの所にいるでしょうね」
ルルが大階段を顎で指す。つまりアリーとはすれ違ったのだろう。ジキルがやってきた東側は王族達の部屋だ。反対の西側には玉座の間がある。
「玉座の間にいるだろうね。十分な広さがあるし、何か派手なことをするなら雰囲気としても打ってつけだ」
キリアンが冗談めかして言う。だが、的を射ている。
「二人はアリーを追いかけてくれ」
「君は?」
「俺はクレオンを一発殴ってから行く」
キリアンはきょとんとし、ルルは呆れたように額に手を当てた。クレオンにいたってはこれ見よがしに深々とため息をついた。
「痴話喧嘩も大概にしなよ」
「すぐ来なさいよ」
一言余計なことを言いながらも二人はすんなりと近衛兵達の包囲網を抜けて階段を上った。
「兄さん」ルルが足を止めた「正直なところ、どうなの?」
「なるべく早く取り返してくれると、お兄さんは嬉しい」
「世話の焼ける兄ね。ほんとに何しに来たんだか」
ルルは肩を落とした。
「さっさと来なさいよ」
「言われなくても行くよ。あんたにも言いたいことは山ほどあるんだから」
ルルは下まぶたを指で下げて舌を出した。生意気な態度だ。ジキルが咎めるよりも先に、ルルは軽やかな足取りで階段を駆け上がる。
二人の姿が消えたのを確認してから、ジキルは近衛兵達を退室させた。ギデオンに命じさせれば渋々ながらも兵達は従う。さすがは王太子だ。王女の婚約者程度ではこうもすんなりとはいくまい。
「サディアス=ドナ=オズバーンを呼べ。彼に王太子を引き渡す」
近衛兵が了承するのを確認してから、広間の扉を閉ざさせる。これで二人きり……人質がいるが、まあ二人きりのようなものだ。
「き、貴様、何を」
「人質ご苦労様」
ジキルが労えば何を勘違いしたのかギデオンは盛大に顔を引きつらせた。足はもちろん、指先までもが震えている。
「よ……よせ。望みは、ななな何だ。言ってみろ」
ジキルは答えずギデオンを引きずって柱に縛り付けた。その間もギデオンは「伯爵の地位をやろう。それとも金か」だの見当違いなことをわめいていた。
「殿下へのお願いは一つだけ」
ジキルは笑みさえ浮かべながら、しかし低い声で凄んだ。
「黙れ」




