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  (七)噂をすれば本人

「とにかく!」

 ルルは身内の恥を振り払った。これで接近戦でも互角にやり合える。形勢は圧倒的に有利になったということだ。

「三対一よ。観念したら?」

 クレオンは魔剣を鞘に納めた。意外に素直だ。もっと抵抗するかと思っていたのだが。

「侵入者だ。捕らえろ」

 クレオンが声をあげた途端、広間に近衛兵達がなだれ込んできた。その数、二十はくだらない。完全武装。おまけに貴族によるお飾りの騎士団とは違って、戦闘訓練を積んだーー実戦向きの兵達だ。

 近衛兵達は隙もなくルルとキリアンを取り囲む。

 キリアンは構えた弓を下ろした。油断なく近衛兵達を見据えながらも訊ねる。

「君は近衛連隊長ではなくなったと聞いていたけど?」

「クレア王女付きのは、な」クレオンは前髪を払った「今はギデオン王太子付きの近衛連隊長だ」

 今さらながら、ルルは何故クレオンがアリーをこの場から去らせたのかを理解した。アリーの安全のためではない。王太子の元婚約者であるリリア=ドナ=オズバーンの姿を近衛兵達に見せないためだ。

「あーら大出世ね。おめでとうございます」

 冗談めかしていながらもルルは冷静に状況を分析していた。

 結論は、限りなく最悪に近い。三対一どころか、圧倒的に不利な状況に追い込まれた。いかな魔剣ノエルとはいえ、あれだけの数の兵を相手では手こずるだろう。その間にクレオンにこちらがやれてしまう。この数の近衛兵達を戦闘不能にする方法をルルは持たない。

 ただしそれは、手段を選んでいたら、の場合だ。

「キリアン」

「駄目だよ」

 にべもない。ルルは鼻白んだ。

「まだ何も言ってないでしょ」

「僕がジキルに怒られる」

「言わなきゃわかんないわよ」

「ダメ絶対」

 キリアンは後ろ手に閃光弾を握った。連中の目を眩ませた隙に逃げるつもりらしい。冗談ではなかった。まだジキルの安否も確認できていないというのに。

「兄さんが心配だわ」

「僕だって」

「怒られるから何よ。くだらない。生きているだけマシだと思いなさい」

 どんなに無茶をしてもワガママを言っても、レナはもう怒ってはくれない。わかりきった事実がルルにはたまらなく悲しかった。五年経った今でも。だからこそ、同じ失態はおかさない。

 ルルは体内の魔導石に意識を集中させた。大河のような魔力のうねりが注がれていくのを感じる。もはやキリアンの声も届かなかった。流れに乗るようにして魔法を構成、展開する。

「私に数で勝負するなんて、いい度胸してるじゃない」

 獲物を選別するかのごとく近衛兵達を見回す。ルルは右手を振り上げた。先頭に立っていた近衛兵の何人かが気圧されて数歩下がる。たかが平民の小娘相手にーー大の男どもが聞いて呆れる。ルルは高揚感に任せて笑った。

「上等だわ」

「やめろ、ルル!」

 振り下ろしかけた手が止まった。ルルは弾かれたように顔を上げた。

「……兄さん」

 大階段からギデオン王子を引き連れて現れたのは、散々探していたジキルだった。まだ殺されてはいなかったようだ。ルルは自分でも意識しない内に安堵の息を漏らした。

(でも、なんで馬鹿王子と一緒に?)

 クレオンに魔導石を奪われたのではなかったか。それにどうして使用人の服なんぞ着ているのだろう。

 様々な疑問がルルの中を駆け巡った。

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