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  (六)恥ずかしい身内

 判断としては悪くない。キリアンとルルがアリーを集中攻撃する以上、クレオンは防戦一方だ。アリーをこの場から離れさせれば、彼女を庇わなくて済む分クレオンは自由に動ける。が、二人を相手取ることになる。

「いい度胸ね。それとも騎士道精神ってやつかしら?」

 屈辱感もあってルルは揶揄した。原初の魔女の子とはいえ、クレオンは魔女でもなんでもないただの人間だ。魔剣に頼らなければ魔法一つ使えない。

「ルル、くれぐれも油断しないで」

 内心を読み取ったかのようにキリアンが警告した。

「無策とは考えられない」

 ルルは小さく頷いた。傲慢だがクレオンは馬鹿ではない。勝算なしに玉砕覚悟で引き受けるような性格でもなかった。

「早く行け」

「う、うん……」

 クレオンに促されたアリーがおぼつかない足取りながらも駆け出す。玉座の間へと続く大階段。すかさずキリアンは弓を引きしぼる。が、新手のぬいぐるみが割って入った。

「そうやすやすと行かせるとでも!」

 ルルは水晶を撃った。その数十は下らない。邪魔なぬいぐるみを避けるように旋回し、アリーに襲いかかる。一つ一つが触れた瞬間に起爆するようになっている。アリーに避ける術はない。防ごうにもぬいぐるみを操っているため、他の魔法を使う余裕がないーーアリーには。

 水晶が一斉に爆発。爆風が大階段を砕き、粉塵と氷のつぶてを巻き上げる。

「へえ……意外にやるじゃない」

 ルルは魔剣を下げたクレオンを見やる。アリーの姿は消えている。爆発で粉々になったのではない。ルルの目には、水晶がアリーに迫る寸前に氷の壁が彼女を覆ったのが見えていた。爆発を防ぐほどの強度を持つ氷を一瞬で形成。魔女でも難しい、高度な魔法だ。

「僕一人で十分だと言ったはずだが?」

「それはどうかしらね!」

 ルルは水晶をクレオン目掛けて放った。同時にクレオンもまた氷のつぶてを放つ。威力は圧倒的にルルの方が上。が、つぶてに触れた水晶はことごとく爆発し消える。最初からそれが狙いだったのだろう。魔法発動と同時にクレオンは剣を抜いて駆ける。

 ルルが気づいた時、すでにクレオンは間合いを詰めていた。剣光一閃。なすすべもなくルルは斬られるーーと思った。当人はもちろん、キリアンでさえも反応できなかった。

 しかし、キリアンの手は背中の魔剣ノエルを抜き放って、クレオンの剣を受け止めていた。クレオンが鼻を鳴らした。

「なかなかやるじゃないか」

「自分でも驚いているよ」

 つばぜり合いから剣戟へ。王国でも屈指の実力を誇るクレオンの剣技に、キリアンは翻弄されながらもかろうじて全てを受け止め、あるいはかわした。

「それはジキルの魔剣だな」

 半年近く一緒にいただけあって、クレオンは気付いたようだ。

「正式な銘はないと聞いていたが……奇妙な魔法だな」

「本当だね。ジキルがどうしてオルブライトを倒せたのかがようやくわかったよ」

「……ほんとに馬鹿」

 ルルは状況も忘れて頭を抱えた。フルオート〈完全自動〉で動く魔剣の柄を握ってオルブライトに突撃したのだ。あたかも自分の剣技で倒したかのように装って。史上稀に見る酷い詐欺だ。

「パーセンで見た時から嫌な予感はしてたけど、やっぱりそうなのね。どうしよう……恥ずかしくなってきたわ」

 現在魔剣ノエルを握るキリアンも、平静を装っているが頰が引きつっている。さすがのクレオンも呆れてしまったらしく「あの馬鹿……っ」と悪態をついた。


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