(五)狙われた魔女
破砕音と共にぬいぐるみが爆散。
「なっ……!」
威力こそ削がれたがアリーの視界は遮られた。致命的な隙。すかさずルルは間合いを詰めた。その手に握られた短剣が閃く。
が、すんでのところでルルの刃をクレオンの魔剣が受け止める。ルルは舌打ちした。騎士なだけあってやはりこの王子、勘がいい。
長剣相手では圧倒的に不利。得物もさることながら技量も雲泥の差がある。鍔迫り合いは早々にあきらめて、ルルは一旦後ろに下がった。
「な、な、なに……を」
目を白黒させてアリーは戦慄いた。
「おあいにく様、爆発系はあんたの専売特許じゃないのよ」
キリアンの鏃には魔石が仕込んであった。ぬいぐるみが受け止めることを予測して矢を放ち、まんまと引っかかった隙にルルが接近戦で仕留めるーークレオンに邪魔されたが、攻略法として正しいことがわかった。アリーは全く対処できていなかった。
ぬいぐるみ爆弾といい、アリーは遠距離からの攻撃に特化している。切った張ったはおろか、対等以上の相手と戦った経験がない。派手な魔法を放って圧倒的な力でねじ伏せてきたが故に、駆け引きができないのだ。
「ま、魔女なのに魔法を使わないなんてっ!」
「お気になさらず。あんたは好きなだけ使っていいわよ」
ルルは手の中で短剣を弄んだ。
「もっとも魔法を使う暇があればの話だけど」
アリーは気色ばむ。しかし彼女自身も気づいているのだろう。火の玉一つ放つよりも先にルルに距離を詰められる。仮に魔法の発動が間に合ったとしても、外してしまえば終わりだ。そういう一発勝負に出るだけの胆力もアリーにはない。
つまるところ、並外れた魔法の才がアリーを傲慢にさせ、傲慢さが弱点を生み出したのだ。
「馬鹿にする気! 平民のくせに……っ!」
「そうよ。下賤で穢らわしい平民の小娘ごときにあんたは負けるのよ」
ルルは短剣を軽く振って挑発した。おそらく貴族のご令嬢は一度も刃物なんて持ったことがないのだろう。ナイフを優雅に使って食事はできても、生き物の命を絶ったことはない。
「あらあら、お嬢様に荒事は向いていないようね?」
「うるさいっ」
怒りに任せてアリーが魔法を放つ。癇癪に等しい攻撃を難なくルルとキリアンはかわした。
「君も相当にあの子が嫌いなようだね」
「関係ないわ。弱いのからやっつけるのがセオリーよ」
言葉で同意はしなかったが、改めて弓を構えたキリアンの狙いはアリーに向けられていた。彼も同じことを考えたのだろう。接近戦にめっぽう弱いアリーを先に倒し、二対一で強敵のクレオンに挑んだ方が得策だと。現実はどこまでもアリーに対して非情だった。
半泣き状態のアリー。冷静さを欠いてくれればますます倒しやすくなる。ルルがほくそ笑んだところで、またしてもクレオンの邪魔が入った。
「……先に行け」
クレオンは魔剣を構えた。
「僕一人で十分だ」




