(四)目ざわりな勇者
ふたたび回想
「どういうことだ」
クレオンは自室に戻るなり、クリスに詰め寄った。
「何故オルブライトが倒された。あいつは一体何者なんだ」
我が物顔でソファーを占拠していたクリスは、ちょうど紅茶を淹れていた。クレオンの剣呑な眼差しに動じる様子もない。
「オルブライトには猛毒があるんじゃなかったのか」
「毒への耐性がとんでもなくあるんだろうね。正直、私も驚いているよ。おとぎ話じゃあるまいし、今どき姫君を助けるために邪竜に挑む勇者がいるとはね」
「冗談を言っている場合か。オルブライトの魔導石はあのジキルとかいう魔獣狩りの手に渡ったんだぞ」
聞けばジキル=マクレティは大陸中を放浪しているらしい。褒美を授かってすぐに旅立たれでもすれば、魔導石を奪うのは難しくなる。
「適当な理由をつけて引き留めるしかなさそうだね」
クリスはティーカップを傾けた。
「どうやら国王陛下はこれを機に、クレア王女を下賜するおつもりのようだし、渡りに船じゃないか」
先王の血を引く姪など邪魔なだけ。実にあの男らしい、合理的な排除方法だ。
「邪竜の次はどこの馬の骨ともわからない平民か、つくづく嫌われているようだな」
とはいえ、下手に懐柔しようとしてこないだけマシかもしれない。一番信用できないのは味方のふりをして近づいてくる輩だ。その点、現国王ダニエルはわかりやすくて助かる。
「好都合だ。そばにいれば魔導石も奪いやすい。不幸中の幸いは、助けられたのがリリア王太子妃ではなく、クレア王女様だったことだね。彼女は王太子妃以外になるつもりはないし、うっかり魔獣狩り殿に惚れられたらそれこそ大変なことになる」
「そんなこと」
「全くないとは言い切れない。何しろ誰もがあきらめて見て見ぬふりをしていた邪竜オルブライトに単身で挑み、見事勝利したのだから。命の恩人であるのと同時に、唯一打算なく手を差し伸べてくれた存在でもある」
クレオンは鼻で笑った。
温室育ちの姫ならいざ知らず、権謀術数渦巻く宮廷を生き抜いてきた自分が、たかが一度助けられた程度で情を寄せるなんてありえない。
(僕は助けてほしいと頼んだこともなければ、願ったこともない)
勝手に首を突っ込んできた平民が運良く邪竜を倒しただけのこと。国王陛下から十分以上の褒美は貰うのだから、借りを感じることもなかった。
「さっさと魔導石を奪うぞ。それで終わりだ」
同性の、それも平民と婚姻。想像しただけでも怖気がはしった。




