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【番外編】おせっかいも恋のひとつ

 案の定と言うべきか、当然と言うべきか、小屋に戻るなりジキルはルルを探しにこのまま旅立つと言い出した。

「一度レムラに戻ってロイスと相談してからにした方がいいと思うよ」

「ロイスは絶対反対するから駄目」

 弟が反対するとわかっていて何故旅立とうとするのだろうか。キリアンは秘薬の代金の勘定をしているベラに視線を流した。素知らぬ顔をしていないで、説得しろ。

「そうね」

 ベラはキリアンに銀貨を投げてよこした。お駄賃のつもりらしい。立ち上がるなり、ジキルの前につかつかと歩み頭のてっぺんからつま先までを一通り眺める。

「まずは言葉遣いを気をつけないといけないわね」

「母さん?」

「剣は持っているからいいとして、旅衣と……キリアン、あんたの古着を貸してあげなさい」

 何を言っているのだこの魔女は。キリアンは我が目と耳を疑った。

「魔女だとバレたら面倒なことにしかならないわ。男で通しなさい」

「男? 私が?」

「『私』も駄目ね。『俺』にしなさい。もちろん口調もよ。キリアンよりも乱暴なくらいでちょうどいいわ」

「母さん、さっきから何を」

 強引に割って入ってようやく、ベラはキリアンの方を向いた。が、どういうわけが不機嫌そうに眉を寄せて。

「何よ。魔女の妹を探している姉なんて『私は魔女です』って言っているのと同じじゃない。行く先々でトラブルになるに決まっているわ」

 たしかに魔女狩りの時代が終わってまだ数十年しか経っていない。いまだに魔女に対する偏見があるのは事実だ。無用な騒動を避けるためにも魔女であることは伏せておいた方がいい。女の子の一人旅もまたしかりだ。

「どうして旅に出ることが前提なんだ。もしかしたらルルがひょっこり帰ってくるかもしれないじゃないか」

「ーーと、根拠もなく楽観視している奴もいるけど、ジキルはどう思う?」

 ジキルは頰を指でかいた。困った時にする彼女の癖だ。

「……帰ってこないと思う」

「同感ね」

「だからって、あてがあるわけでもないのに」

 核心をついたつもりの指摘だっただけに、ジキルが小さく頷いた時には驚いた。キリアンは自分でもわかるくらい間の抜けた声で「え……あるの?」と訊ねた。

「『暁の魔女』」

 世間一般では存在すら定かではないとされているがーーなるほど。キリアンは納得した。『暁の魔女』ならばルルが家出してもおかしくはない。

 大陸屈指の魔女が集う秘密結社。目的は魔神の再来だの言われているが実際のところは不明だ。ベラのような薬草を煎じたりして日銭を稼ぐせせこましい魔女は相手にせず、戦闘及び大量破壊に特化した魔女のみが所属するという。思想はさておきルルにうってつけの団体だ。彼女の魔力と才はベラをはるかに凌いでいる。

「ルルは『暁の魔女』と一緒にいる」

 ジキルは押し殺した声音で言った。何かを必死に堪えているようだった。何故ルルが怪しげな秘密結社なんぞにほいほいついていったのかーー母の復讐のためと考えれば合点がいく。

「胸は晒しを巻くとして、声はどうにもならないからあきらめた方がいいわね」

 ベラは妙に楽しげだ。白い長布を取り出して服の上からジキルの胸に当てる。死んでも口にはしないが、見る限りでは必要なさそうな気がした。本人も同じことを考えたらしく、首を傾げた。

「いるかな?」

「気がついたら大きくなっているものだから、ちゃんと巻きなさい」

 ここにきてキリアンはいつの間にか旅立ちが決定事項になっていることに気がついた。

「一人で旅に出るのかい? さすがにそれは」

「親同伴だから大丈夫でしょう」

 ベラは顎でジキルを示した。正確には、ジキルが背負っているもの。布でぐるぐる巻にされているそれは魔剣だ。

「それ、レナからもらったものでしょう?」

 ベラはジキルの背中に手を伸ばした。布をずらして柄の部分を露わにする。

「銘はないみたいだけど」

「ノエルね」

「え?」

「柄に書いてあるわ。『親愛なるノエルに』って」

 ジキルは首を捻って魔剣を見る。彫り込まれた文字に気づいていなかったようだ。

「…………のえる」

 名を呟く。噛みしめるように。過去に想いを馳せるかのように。

「ジキルのご先祖様の名前かな?」

「いや、母さんの実家は農民だ。武勇伝なんて聞いたこともないし、父さんにいたっては……」

 ジキルでさえ後ろ姿しか覚えていない。全く手掛かりなしだ。しかし魔剣は魔剣だ。普通の剣よりはずっと頼りになる。

長くなってしまったのでここで一旦区切ります。

次で番外編は終了です。

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