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  (十)原初の魔女

 レナ=ヴィンセントはレムレス地方の山奥にある集落に生まれた。夫ーージキル達の父親との出会いを機に、半ば駆け落ち状態でレムラにやってきたという。が、ある日レナが魔女であることを知ってしまった夫は、彼女の元を離れた。キリアンはそう聞いている。

 不可解な点は元から多かった。

 離縁されたのならば真っ先に生まれの集落に戻るべきだ。一度抜け出したとはいえ、少ない同胞である魔女にそう辛くはあたらないはず。三人の子どもを連れて集落に戻ればあの忌まわしい『魔女狩り』で処刑されることもなかった。しかしレナは戻らなかった。むしろ故郷から離れようとノストラ地方に移住した。

 そして魔剣ノエルだ。埋め込まれている魔導石は母からもらったものらしい。魔女は反発作用が起きるため、基本的に自分の魔導石以外の魔導石では魔法を使うことができない。使えもしない魔導石を何故娘に託したのか。

「母君は魔法一つ満足に使えない魔女だと言われたそうだね。失礼だとは思わないかい? そもそも魔女ではないのに魔法を使えないからと蔑むなんて、お門違いもいいところだ」

 ルルは歯を鳴らしてクリスを睨め付けた。対するクリスは向けられる怒気にまるで頓着しない。

「レナ=ヴィンセントは魔女だから処刑されたんじゃない。魔女の母親だから殺されたんだ」

「そんなこと、」

「あり得るんだよ、父親が魔族ならばね」

 キリアンは思わずルルを見た。ルルは肯定も否定もしない。ただ親の仇の如き激しい視線をクリスに注いでいた。

「魔族と人の間に生まれた混血児。まさか『原初の魔女』を二人も産んだ女がいたとは思わなかったよ。てっきり、君が最初で最後かと」

「あんたが勝手に思い込んでただけでしょう」

「その通りだ。でも君は私の勘違いを訂正しなかった。姉君を守りたかったから。実に姉想いの妹だ」

「面倒だっただけよ。兄さんは魔女とは言っても大して魔法を使えないし」

「全く使えない、と言うべきだろうね」

 クリスが訂正するとルルの顔が強張った。

「ジキル=マクレティは魔女でありながら魔法を使えない。その代わり彼女の身体にはある特性がある。正確には、特性があるせいで彼女には他に魔法を使う余力がない」

 キリアンは背筋に冷たいものが走るのを感じた。ジキルの特異体質については知っている。母も興味を持っていた。

 ジキルの身体は毒を受け付けない。同時に良薬も受け付けないのだ。風邪薬を飲んでも効果がなく、幼い頃は特に身体が弱かったので、よく発熱しては寝込んでいた。

「あんた……どこまで、」

「さっきの質問に答えようか」

 クリスは嗤った。

「約束だから、君の『お兄さん』には我々『暁の魔女』は危害を加えていないーー魔女は、ね」

 まんまと時間を稼がれてしまった。キリアンとルルは部屋を飛び出した。背後から響くクリスの哄笑。

「どこへ行くつもり! 兄さんの居場所がわかるの!」

「たぶんこれが教えてくれる」

 キリアンは魔剣ノエルの柄に軽く触れた。埋め込まれている魔導石がひとりでに輝きを放っていた。

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