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  (七)かわいそうなお嬢様

「何を馬鹿なことを……貴様の目的は魔導石ではないのか」

「だーかーらー、殺して奪うのよー」

 つぶらな瞳のぬいぐるみが迫る。可愛さ余って怖さ百倍。こうなれば自棄だ。ジキルはクレオンの手を引いた。

「行くぞ!」

「お、おい!」

「え?」

 ジキルは猛然と特攻した。アリーの方へ。虚をつかれたアリーはこちらの形相に恐れをなしたのか「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。

「爆発させるものならやってみろ。お前も道連れだぞ!」

「こ、来ないでっ!」

 さしもの天才魔女もこれは想定していなかったようだ。攻撃と防御を同時にできないのも災いした。あのぬいぐるみ達を操っている間は、アリーはただの少女なのだ。

 逃げるアリー。追うジキルとクレオン。その後ろにわらわらと迫るクマのぬいぐるみ。今夜夢に出てきそうな酷い光景だった。

「走りにくいなあ」

「当たり前だ。使用人の服は全力疾走など想定していない」

 それでも話す余裕があるのはゴールが見えているからだ。廊下の最奥にあるのはサロンを開くための広間だ。アリーが慌てて閉めようとする扉をジキルは蹴破った。

 椅子もテーブルもない。だだっ広いだけの部屋に、アリーの逃げ場はない。

「さあ、おいたはこのくらいにして、ルルの居場所を教えてもらおうか」

 ルルの名を聞いた途端、アリーの表情が憎々しげなものへと変わる。およそ十二歳の少女には似つかわしくない恨みに満ちた顔だった。

「ルル、ルル、ルル! あんな魔女が一体何だって言うの!?」

 憎悪を露わに叫ぶ。今までとは違って、全く取り繕っていない、純然たる感情の爆発だった。

「アリーの方が凄いのよ! 天才なんだから! オルブライトだって、倒せるんだから! 王女様なんだから! あんな、あんな汚らしい女なんかに、どうして、アリーが!」

 支離滅裂だ。おそらく当のアリーでさえも自分が何を言っているのかわかっていないのだろう。 しかし、ジキルはおぼろげながらもアリーが何を訴えているのかを察した。

 それは直感に等しい。アリーが親の関心を求めて癇癪を起こす幼い子どもに見えたのだ。

「……リリア」

「きやすくアリーの名前を呼ばないで! 下賤な民が!」

 アリーは狂ったように嗤った。

「お前だって同じ魔女のくせに! ジキル=マクレティ!」

 ジキル、と耳元で鋭い警告。が、反応する前に背中に痺れが駆け抜けた。撞木で突かれたような衝撃。息が詰まった。脳裏に一瞬だけ、いつか見た父親の後ろ姿が蘇って、消える。何故ここでそんなことを思い出すのか、あいにく考える余裕はなかった。

 声をあげる間もなく、ジキルは崩れ落ちた。


明日からしばらく『清くも正しくも美しくもない』を更新いたします。


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