【番外編】心配もまた恋のひとつ
「おそいわ」
「変ねえ、いつもならもう来ているはずなのに」
ジキルは呟いた。
ルルが短気であることを加味しても遅かった。どこかに寄っているのか、獲物が大量で時間がかかっているのかもしれない。
彼ほど猟の上手い者をジキルは知らなかった。この村にいるどの大人よりも、あの少年は弓の腕が優れている。
はたして目当ての少年は現れた。いつもとは違う通りからだ。森とは反対方向の、ジキル達の家がある方。どこかに寄り道していたようだ。予想よりも今日の獲物は少なく、ウサギが二羽だけだった。
少年はマクレティ三姉弟(妹)の姿を認めるなり、目を見開いた。
「怪我、もういいの?」
「けが?」
「背中……熱も出たって」
予想外の言葉にジキルは一瞬返答に詰まった。
「あ、うん……大した怪我じゃないから」
ジキルが病弱なせいで寝込む羽目になったが、軽く背中を打って腕や足に擦り傷を負った程度の怪我だ。
「それより、この前は本当にごめんなさい。それで、これはせめてものお詫びのつもりで」
ジキルはルルの背中を軽く押した。ルルは明後日の方向に目をやりつつ、片手だけ少年に差し出した。袋いっぱいに詰めた木の実。
「これを、僕に?」
「パンに入れたりすると美味しいよ」
ロイスが言うのだから間違いはない。隻眼の少年はルルから受け取った木の実をまじまじと見つめた。
「これでかりはかえしたわ」
生意気を言うルルの頭をジキルは押さえつけて、むりやり頭を下げさせた。
「「「ごめんなさい」」」
三人で一礼。少年は消え入りそうな声で「別に。気にしてないから」と言った。見た目通り、穏やかな性格のようだ。ジキルは好感を持った。しかし、隣のルルはどういうわけか鼻白んだ。
「ルルごときのけりじゃいたくもかゆくもないってこと? じょうとうだわ」
「だからどうして喧嘩しようとするの」
「ルル、やめなよ」
二人がかりで暴れる妹を抑え込む。若干呆れ顔で様子を静観する少年に、ジキルは笑顔を向けて誤魔化した。
「ところで自己紹介がまだだったよね? 私はジキル」
「弟のロイスです」
「ルルよ。よくおぼえておきなさい」
ジキルはルルの頭を軽くはたいた。少年は目に微かな笑みを滲ませた。
「はじめまして。僕はキリアン」




