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  (十一)とんぼ返りする王女様

 パーセンで火事が起きたという知らせが入ったのは、再び馬車を走らせてからしばらくしてのことだった。

 大通り沿いにある宿から突然爆発音がしたかと思ったら、火の手が上がり瞬く間に周囲の建物に燃え移った。懸命な消化活動により火は消し止められたが、六棟が全焼。かなりの騒ぎになっているらしい。

 早馬からの報告を受けたクレアは、宿泊している屋敷に戻るように命じた。

(やはり手を打ってきたか)

 出火元を確認するまでもなかった。『大熊亭』だ。殺し損ねたキリアン達にトドメを刺すべくあの魔女が襲撃したに違いない。

 クレアは額に手を当てた。問題はこれからだ。

(一番の面倒事を押し付けていったな)

 早くもジキルをレムラに行かせたことを後悔しはじめていた。が、もう遅い。自分があの魔女をどうにかするしかないのだ。

 屋敷に戻るなり、レオノーレが出迎えた。

「クレア様、ご無事でございますか」

「ええ。心配を掛けましたわね」

 レオノーレが僅かばかり面を食らった顔をした。人前では素っ気ない態度を取っている『クレア王女』が素直に答えたことが珍しいのだろう。

 クレアは部屋に戻る旨を伝えて、レオノーレだけを引き連れた。人払いをしてからドレスを脱ぐ。カツラもチョーカーも外して、クレオンに戻る。やはりこの姿が一番落ち着く。騎士の制服に魔剣を装備し、クレオンはマントを装着した。

「あの、クレオン様」遠慮がちにレオノーレが問いかけた「ジキル様とご一緒にパーセンに向かわれたと伺っておりましたが……ジキル様は、」

「あいつなら帰った」

「え……?」

「レムラに帰った。僕が許した」

 レオノーレは困惑を露わにした。長年従ってきた彼女でさえも意味をはかりかねている。それほど自分の行動は突飛だったのだ。

「何故、そのようなことを」

「さあ、どうしてだろうな」

 クレオンは肩を竦めた。

 正直なところ、自分でもよくわかっていなかった。ジキルが戻ってきても得になることは何一つとしてないのに。守られる保証のない約束をするなんて、以前の自分ならば考えもしなかった。

「強いて言えば、君と一緒で僕もおかしくなったのかもしれない」

 クレオンは皮肉を滲ませた笑みを浮かべた。

「今でも信じられない。まさかレオノーレ、君が僕に隠し事をするなんて」


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