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  (三)疑惑の前王妃

 結局、ジキルが獲物をつれて『にくきゅう』に戻ったのは昼過ぎだった。繁盛する時間帯が終わるのを見計らって帰ったと言うべきか。

 その際、唯一の頼みだったロイスに「正装を貸してくれ」と頼んだら、彼は迷うことなく喪服を出してきた。平凡な町人が正装する機会なんて葬式か自分の結婚式ぐらいとはいえ、ジキルが脱力したのは言うまでもない。

 首を傾げるロイスにジキルは山での出来事を説明した。一人になった時に現れた間の抜けた不審者のことも。

「それでよくもまあ呑気に獲物をさばいたりしましたね、兄さん」

 と、言いながらロイスは手際良く猪もどきの皮を剥ぐ。川で半日近く冷やしておいた魔獣をジキルが引きずって帰るなり、彼は食堂の裏手にある納屋で解体作業を始めたのだ。

 手が空いている時間に帰ったのは正解だった。狩りの腕はともかく、精肉はロイスの方が上手だ。ジキルは早々に猪もどきの処理を弟に任せた。

「美味しいかな?」

「どうでしょうね」ロイスは関節に切れ目を入れた「なにぶん魔獣ですから」

 魔導石の影響で異常な発達を遂げたものだ。見かけがいくら猪に似ていても、実際はまるで違う。体格も身体能力も特性も、当然ながら味も。

「それにしても、ますます面倒なことになりましたね。まあ、元から複雑なお立場の方ですから予想はついてましたが」

「複雑な立場?」

 ただの国王の姪ではないのか。首を捻るジキルにロイスは説明した。

「クレア王女の母君――エリシア=ノット=リルバーン前王妃は魔女の疑惑を掛けられていました。ダニエル国王陛下の食事に魔女の秘薬を盛って毒殺しようとしたかどで、一度は逮捕もされています」

 突如飛び出た物騒な話に眉を顰める。

「どうしてそんなことを」

「血筋でいけばアダム前国王亡き後に新国王となるのは、自分の娘であるクレア第一王女。しかし実際に王位を継いだのは王弟であるダニエル様です。女という性別、当時はまだ十歳という幼さと理由があるにせよ、納得がいかなかったのでしょう」

 ロイスは大ぶりのナイフを一旦作業台の上に置いた。

「あなたはもう少し世間に関心を持つべきだと思いますよ。なんでレムラにいる僕が知っていて、王都にいた兄さんが知らないんですか」

「そうは言っても一週間くらいしかいなかったよ」

「一週間もいて自分の婚約者について何一つ知ろうとしなかった消極的かつ他人事のような悠長さ、羨ましい限りです」

 ロイスは渋い顔で獲物をさばく。一国の王女を嫁に貰うという想定外過ぎる事態に直面し、一週間城に軟禁状態。これで冷静に情報収集に勤しめる者がいたらぜひともお目に掛かりたい。反論の言葉をジキルは呑み込んだ。全て言い訳だ。

「まあそれはさておき」

「さておかないで、早急に改善していただきたいですね」

「エリシア王妃はどうなったんだ?」

 強引に続きを促すと、ロイスはため息をついた。

「魔女の嫌疑は晴れました。ご息女のクレア様が魔法を使えなかったので」

 魔法を使う素質の有無――すなわち魔女になるか否かは、ほぼ血筋で決まる。母親が魔女ならばその娘もまた魔導石を身に宿す魔女だ。まれに魔女ではない、普通の人間から魔女が生まれることもあるが、その逆はいまだかつてない。

 娘であるクレア王女が魔女ではないのなら、エリシア前王妃は魔女ではない。至極常識的な判断だ。


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