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  (十三)矛盾を孕んだ二人

 報告はした。猪肉の礼も兼ねての手土産も渡せた。

 昼も過ぎた頃、ジキルは屋敷に戻ることにした。晩餐に出席するための準備もある。結果的に置いていくことになったクレオン……は、リリアとよろしくやっているだろうから問題はないとジキルは判断した。

「せっかく来てくれたのに母が不在で悪かったね」

「よろしく伝えてくれ」

 薬草を採りに行っているらしい。仮に外出していなかったとしても会えなかっただろう。

 キリアンの母――本人曰く「生んでも育ててもいない」母は、この森に古くから住む魔女だ。ルルの師匠にもあたる。極度の人見知りで、ジキルでさえ顔を見たのは数える程度だった。

 そんな彼女が、全く面識のないサディアスがいるこの状況で姿を見せるとは到底思えなかった。

「じゃあ、また」

 軽く手を挙げて踵を返し――かけた時にキリアンが声をあげた。

「ああそうだ。忘れるところだった」キリアンは前髪をかきあげた「この目、僕を拾った人が潰したんだ」

 唐突な告白だった。

 醜い傷痕が残る右目。それもそのはず。醜ければ醜いほど『価値』が上がるのだから。

「物乞いをする時は赤子がいた方が稼ぎやすい。一目で障害を持っているとわかる子どもならばなおさら同情も買いやすい」

 キリアン曰く、片目で済んだのはまだいい方らしい。

 それとわかるように片腕、片足を切り落とされる赤子もいるし、顔を焼かれる子どももいる。理由は単純明解。その方がより多く稼げるからだ。

 貴族には想像を絶する論理だ。サディアスは驚愕に目を見開いた。

「そんなことが……」

 まかり通っていいのか。是非を問われれば非だろう。よしばもいかない子どもの身体を傷つけるなどあっていいはずがない。

そんな道理に合わないことでも、まかり通ってしまうことは、サディアスもよく知っているはずだ。

「でも皮肉なことに、それで稼いだ金で僕は育ててもらった。あまり文句は言えないね」

 キリアンは穏やかな、ともすれば軽いとも取られかねない口調で言った。

「かといって、君の妹君の気持ちがわかるかと問われれば、正直自信はない。僕とは生まれからして違うからね。でも、君のように気に病んでくれる兄がいることは、とても大切なことだと思う」

 サディアスは真っ直ぐにキリアンを見た。思わず背けたくなるほど醜い傷痕を、その目に焼き付けるように。

「つまらないことを言って悪かったね」

「いや」サディアスは首を横に振った「ありがとう」

 キリアンに右手を差し出し「また来てもいいか?」と訊ねた。キリアンは笑顔で握手に応じた。

「君なら歓迎するよ。あそこの牙を鳴らしてくれ」

 キリアンが指差した先には枝に括りつけられた牙が垂れていた。ドアベル代わりだった。

「見慣れない物だが、猟師はみんなああいうのを使っているのか?」

「この家以外では見たことがないね。あの音は合図なんだ」

「合図?」

「そう。僕の母が外出するか引きこもるかの合図」

 首をかしげるサディアスに、ジキルは忍び笑った。キリアンの母の人となりを知れば即座に解消する疑問だった。

 彼女は筋金入りの人見知りだ。牙が鳴る度に、地下室に閉じこもるか仮小屋を飛び出しているのだ。


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