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傷痕
子供の頃、誘拐事件に巻き込まれた。俺は小学校にも通っていないくらい小さかったはずだ。
拐われたのは3人。別に裕福な家庭の人間ってわけでもなく、共通点はガキってことだけ……つまらない変質者が起こした、しょうもない事件さ。ただ、そんなやつが起こした事件でも、事態は深刻だった。
助かったのは1人だけ……俺が救出されたとき、現場は誰もが目を覆いたくなるような凄惨な状態だったらしい。下らない人間が起こした最低の事件……ところが、そのときの犯人は未だに捕まっていない。解決の糸口は、当然、俺の頭ん中に存在するんだろう。ただな…俺はどうしても、そのときのことを思い出せないんだ。
たまに、ドラマなんかで医者が「奇跡です!」…なんつって、人の生命力の偉大さを讃えるような場面があるだろ?まあ、そういうことも確かにあるんだろうさ…だがな、本当に多いのは逆だ。人は簡単に死ぬ。あの事件で外傷のなかった俺に、残ったのは心の傷なのかもしれない。
人の命を簡単に奪えるやつらが、俺は心底、恐ろしい。