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Gナンバーの居候猫  作者: 小高まあな
第三幕 愛猫フォトコンテスト
5/14

3−1

 エミリが報告にきてから二週間が経ったが、マオに特別変化は見られない。というか、マオの変化がよくわからない。

 過睡眠が兆候としてあげられる、と言われても、もともとよく寝ていたしなあ、だらだらと。

 そうまるで、猫みたいに。

 それは自分もだが。

 マオがテレビを見て、隆二が本を読んで、マオが飽きて隆二にちょっかいをだして、それを隆二が適当にあしらって。膨れっ面をしたマオがいつの間にか寝ていたり、気づいたら隆二も寝落ちしていたり、起きて気が向いてコーヒー飲んだり、マオが散歩に行ったり、コーヒーが切れて仕方なくコンビニに行ったり。それがいつもの、神山家の日常だった。

 神山家の日常は、いつだって怠惰で非生産的で、心地よい。

 いつだって眠り過ぎといえば眠り過ぎなのだ。だから違いなんて、わからない。わからないということは、きっと無い、ということだ。兆候なんて、無い。消えたりしない。

 最近の隆二は、ことあるごとにそう自分に言い聞かせて安心させている。安心、ということはつまり自分は心配しているのだ。不安に思っているのだ。そしてその度に、その事実にぶちあたる。

 脳裏をよぎるのは、あの言葉。

「理解してろよ、意識してろよ。目を逸らすなよ。ちゃんと考えてないとお前、後悔するぞ」

 呪いのように自分にまとわりつく、京介の言葉。

 いつだって見ないフリをしてきた。茜のことだって、京介のことだって、きちんと見ていたらもっと別の選択肢があったはずだ。

 だけれども、突きつけられる現実が怖くて、いつだって目を逸らしてきた。目先の快楽を選んで、未来の不幸を呼び寄せてきた。そんなこと、自分でよくわかっている。

 だからって、

「……じゃあどうすればいいんだよ」

 見ているだけじゃ駄目なのに、どうしたらいいのかわからない。

 口からこぼれ落ちた弱音に、自分で思わず嘲るような笑みを浮かべてしまう。

『んー? なんかいったー?』

 こちらを振り返ることなく、マオが尋ねて来る。視線はテレビに固定されている。

 マオの大好きな四字熟語シリーズとやらは、七転びヤオ君子まで無事放送が終了した。ただ、特撮版が終わったことにより、今度はアニメ版の再放送が、少し放送時間を変えて行われている。今だってマオは、アニメ版疑心暗鬼ミチコに釘付けだ。

「独り言。気にすんな」

『そー。ああっ、危ないっ』

 隆二の返答よりも、画面の中で背後から襲われたミチコの心配をする。思わず中腰になっている。

 その平和な姿に、思わず口元が緩む。大丈夫。ちゃんと見ている。ちゃんと見ている結果、判断している。マオは大丈夫だ。

 きゃぁっ! と悲鳴なんだか歓声なんだかわからない声をあげるマオは、ちゃんとここにいる。

 たっぷり三十分、わいわい騒ぎながら視聴を終えると、ふわりとスカートの裾を翻して隆二のところにやってきた。

 終わった途端、すぐこれだ。暇になった途端、構ってもらいにくる。気まぐれだ。

『ねー隆二ー』

 甘えるように、ソファーに座った隆二の膝に顎をのせて、上目遣いで告げる。

『お腹空いたー』

「また? テレビ見ていただけなのに、燃費悪いなお前」

 呆れて笑う。テレビを見ていただけなのに、すぐに空腹を訴えてくる。<Kbr>まあ、毎回毎回あんなに高いテンションでテレビを見ていたら、そりゃあエネルギーも消費しやすくなるだろう。

『だぁって、空いたんだもん』

「はいはい」

 マオはぷぅっとふくれたまま、隆二の膝から動かない。<Kbr>いつもならさらっと、行ってくるね! なんて言うのに、何か言いたげじっと隆二の顔を見ている。

「……なに」

 その視線の意味をおおよそ理解しながら尋ねると、

『……一緒に行こう?』

 小声で誘われる。そうだと思ったよ。

「……仕方ないな」

 しぶしぶそう言うと、マオの顔が一気に華やいだ。

 なんとなく、心配なことは心配だし。

『やった! お散歩!』

 浮かれたように宙を舞うマオの、すらっとした体つきを眺める。

 しかしまあ、よく寝て良く食べているのに、なんで育たないかなぁ。胸が。

 心底どうでもいいことを思った。

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