2−2
ぴろろん、と音を立ててケータイが鳴った。
『隆二! ケータイ!』
新しい玩具を与えてもらった子どものように、ケータイをじっと眺めていたマオが焦ったような声をあげた。
「ん」
なんでもないように頷いて、それを手に取る。手が震えそうになる。
『メールね!』
横から覗き込んだマオが言う。新着メール一件と出ている。
「えっと」
『その真ん中のボタン押せばいいんだよ』
「わかってるよ」
本当にわかっていたってば。今押そうと思っていたってば。
そう思いながら、真ん中のボタンを押す。
エミリからの返事だった。<Kbr>開くとそこには長文がずらりと並んでいる。
え、さっきメールしたばっかりなのに、もうこの量の返信を打ってきたの? そのことに愕然とする。
若者、怖い。
メールの内容は、小さいつの出し方を懇切丁寧に教えてくれていた。ただ、ところどころバカにしたような言い回しも確認できたけれども。
そして、最後に書かれている。
「お尋ねの件ですが、赤いと三倍速いんですよ?」
三倍速い?
『赤い彗星だったのか……』
横からそれを見ていたマオが、驚いたように呟く。
え、なんで伝わってんの?
全く意味のわからない隆二をほったらかして、マオはなるほどね、なんて呟いている。<Kbr>だから何が? なにこれ、ジェネレーションギャップ?
困惑している隆二の顔をどう判断したのか、
『お返事しといた方がいいよ』
マオがくすり、と笑って言う。
『わかった、だけでも。小さいつ、使うしね』
戯けたように付け足す。まったく、余計なお世話だ。
そう思いながらも、なんとか苦労して、わかっただけのメールを打つ。
ああ、なんだろうこの達成感に疲労感。頼むから、嬢ちゃん、これ以上今日はメールしてこないでくれ。対応しきれない。
『おつかれさま』
マオが笑ったまま、隆二の頭を撫でる。<Kbr>なんだかバカにされている気しかしないが、今回は本当、バカにされても仕方がない気がするので何も言わない。<Kbr>代わりに、目の前のマオをじっと見つめる。
『なに?』
見られていることに気づいたのか、マオが小首を傾げる。
『今日もマオは可愛いよって? 知ってるー』
「言ってない、一言も」
両手を頬にあてて、巫山戯て笑うマオは、いつもどおりのマオだ。
Gナンバーの消失。それはマオとはきっと関係ないのだろう。きっとそうだ。
だって、マオはすでに規格外なのだ。こんなに自由気ままに動くのはGナンバーとしてはイレギュラーなのだと、最初の時にエミリが言っていたじゃない。
だから消えるなんてこと、あり得ない。
そう自分に言い聞かせる。
それでも、
「……なあ、体調とかどうだ? 妙に眠いとか、そういうこと、ないか?」
一応聞いてみる。
マオは、急に変な質問をされた、とでも言いたげな不思議そうな顔をしながら、
『女の子はそういうときがあるってテレビでみたよ』
とんちんかんな回答をかえしてくる。
……また、そういうことばっかり覚えて。
うんざりため息をつく。
テレビに教育を投げっぱなしな俺がいけないんだよな、きっと。ちょっとだけ反省。
『眠くはないけど、ねー、隆二。お腹空いたぁー』
甘えたように喉を鳴らして、マオが隆二の右腕を軽く揺する。
「この前食べてなかったか?」
『でも空いたのぉ! だから、行ってくるね?』
軽く唇を尖らせてそう言うと、隆二から離れようとするマオを、
「あー、ちょっと待て」
引き止める。
なにもないとは思うけれども、万が一なにかがあったら困るから。心配だから。という理由は隠して、
「俺も行く。コンビニ行く、ついでに」
言い訳を付け足しながら立ち上がると、
『本当っ!? 一緒に来てくれるの? やったぁ!』
マオの顔がぱぁぁっと華やいだ。