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Gナンバーの居候猫  作者: 小高まあな
第一幕 猫の飼い主に小判
2/14

1−2

『ププ、よくみたらこれ、おじーちゃん用のやつだよね? やだー、エミリさんったらナイスチョイス!』

 台所で湯を沸かしていると、マオのはずんだ声が聞こえる。

『エミリさんのは?』

「これ、ですが」

『わっ、スマートフォンじゃん! いいなー、アプリとかなにいれてるの? ツイッターやってる? フェイスブックは? ラインは?』

「なんでお前そんなに詳しいんだよ」

 持ってないくせに。

 コーヒーをいれて戻って来ると、マオは机の上に座り、置かれたケータイをじろじろと眺めていた。

 エミリが若干ひきながらそれを見ている。

「つーかお前、距離感急につめすぎだろ。嬢ちゃんひいてるじゃないか」

「エミリです」

「あとほら、テーブルに座るな。行儀が悪い」

 言って椅子をひいてやる。

『はーい』

 マオは大人しく隣に座った。

 エミリの前にもコーヒーを差し出しすと、問題の機械を見る。

「とりあえず充電してありますから、使えるはずですよ。電源いれてください」

 エミリがさらりと言う。

「……電源」

 ケータイを凝視したまま固まった隆二を見て、

「……その電話のマークのところを長押ししてください」

 エミリがどこか呆れたように言う。

 わからないんだから仕方ないじゃないか。

「これ?」

「こっちです」

「ああ、これね。……つかないけど」

「長押しです。数秒押したままにしてください」

 言われたとおりに、ボタンを押しっぱなしにすると、ぱっと画面がついた。

「おおっ」

 思わず声が漏れる。なんだかちょっと嬉しい。

 そんな隆二とは対照的に、

「まさか、電源をいれるのにも一苦労だとは思いませんでした」

『前途多難、ってやつね』

 若者二人はつまらなさそうに言う。

 ほっとけ。

「はい、じゃあとりあえず電話とメールぐらいはマスターしましょう。どうせネットとか使わないでしょうし」

『使えない、だね。正しくは』

「とりあえず、わたしの連絡先を赤外線で……。どうせ神山さんが番号交換する相手なんていないでしょうから、覚えなくていいですね。わたしがいれますね。貸してください」

「どうせどうせって失礼だな」

 そのとおりだけど。

 なに言っているんだかわからないまま、エミリにケータイを奪い取られる。エミリが隆二のと、自分のとをなにやら操作して、

「はい」

 すぐに返された。受け取るとそこには、進藤エミリの文字と、電話番号と思われる数字と、なにやらアルファベットの羅列が並んでいる。

「わたしの番号とメアドです」

『エミリさんって、進藤っていうんだねー、知らなかったー』

 それを横から覗き込んでいたマオが驚いたような声をあげる。

「ああ、そういえば名乗ったことありませんね」

『うん』

「進藤エミリです。どうぞよろしく、マオさん」

 エミリがマオに微笑みかける。

『マオです!』

 マオも戯けて挨拶をする。

 それを見ながら少し意外な気がする。エミリがこんな風に巫山戯るところ、初めてみたかもしれない。

 ぼんやりそれを見ていた隆二に、エミリが鋭い視線を向ける。

「ぼぉっとしてないで、次は電話かけますよ」

 そのまま鋭い口調で言われる。あ、やっぱりいつもどおりかも。

 その後、電話の取り方やかけ方を呆れられながらも教えられ、現在、

「とりあえず、メール打ってください。こんにちは、お元気ですか、ぐらいでいいので文面」

 と放置されているところだ。

 メールアドレスは面倒だから、とエミリに勝手に決められた。それにしても、神山だから、god_mountainって、酷いセンスじゃないか、これ?

 慣れない操作に四苦八苦している隆二を尻目に、エミリとマオはなんだか楽しそうに話をしている。

『へー、じゃああの研究所って、国が作った秘密の研究所ってこと? それだけ聞くとかっこいいねー、なんか! ミチコの敵とかいそう! それか、事件が起きて刑事さんが調べに来そう!』

 マオが目を輝かせて言うのを、

「あくまでも敵役、なんですね」

 エミリが苦笑いでうける。

『エミリさんは子どもの時から研究所にいるの?』

「ええ。住居はずっとあの敷地内なので。祖母の代から。だからここからですと、ちょっと遠いですね」

『隆二ともずぅっと知り合い?』

「そうですね、父がもともと神山さん達の担当だったので」

『ああ、あの似てない……』

「よく言われます。ですので、実務につく前から何度か面識は。ちゃんと仕事はじめたのは、中学のときですね」

『へー、すごいね』

 それにしても、話題がなんだか物騒だろう。楽しそうだからいいけどさ。

 などと思うものの、つっこむ余裕は隆二にはない。

『でも中学生働かせるなんて、人いないの?』

「……いないんですよ」

 マオの屈託のない質問に、エミリの顔がひきつる。

「研究班は、そこそこいるんですけれども。あの人達は研究にしか興味がないので、後始末をするわたしみたいな人は、数が少ないんです」

『ふーん、そのままいなくなっちゃえばいいのに』

 ストレートな物言いに、さすがにぎょっとして隆二は顔をあげた。思わなくないが、それをよくまあエミリに言えたものだ。

 エミリは苦笑いしながら、

「まあ、マオさんからしたらそうなりますよね」

 と呟いた。それから、自分を見ている隆二に気がつくと、

「神山さん、余所見しないでください」

 冷たく一言。隆二は慌ててケータイに向き直った。ええっと、次はどうしたら。

「あっ」

「……はい?」

「全部消えた」

 ここまで打った文面が、何を間違えたのか消えてしまった。あとちょっとだったのに!

「……やりなおしてください」

 エミリが溜息まじりに言葉を吐いた。

『隆二は本当機械駄目ねぇー』

 マオもおちょくるように言う。

 うるさいな、お前だってできないくせに。まあきっと、触れたらあっという間に使いこなしてしまうんだろうけれども。

 そう思いながらも、再び仕方なしにケータイに向き直った。

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